飲食店の業務は、調理や接客だけでなく、仕入れや売上管理、シフト調整など、さまざまな業務を同時にこなさなければならないため、業務効率化が欠かせません。
近年では、デジタルツールを活用することで、従来の手作業による業務を大幅に簡略化することに成功している飲食店も増えてきています。
本記事では、初心者でも安心して活用できる飲食店開業に役立つ便利ツールやアプリをご紹介します。導入するメリットや注意点もわかりやすく解説するため、これから飲食店の新規開業を控えている方は、ぜひ参考にしてください。
飲食店が業務効率化を図るべき理由

飲食業界では、人材不足が大きな課題となっています。その一方で、接客品質の維持あるいは向上を図りながらも、顧客満足度を高めるためには、業務の効率化が欠かせません。
業務効率化により得られる主なメリットは、以下のとおりです。
- 人材不足の解消に貢献する
- 無駄なコストを削減して利益につなげられる
- 顧客満足度の向上・集客力アップにつながる
それぞれの内容を詳しく解説します。
人材不足の解消に貢献する
飲食業界は、勤務時間や環境、休日などの労働条件が過酷であることから離職率が高い傾向にあります。そのため、新たに求人募集をかけてもなかなか採用が進まずに、慢性的な人手不足という課題を抱えています。
限られた人数でさまざまな業務をこなさなければならないため、必然的に従業員一人ひとりにかかる肉体的・精神的ストレスが大きくなり、さらなる離職者を生み出してしまうのです。
帝国データバンクが2024年4月に発表した「人手不足に対する企業の動向調査(2024年4月)」によると、飲食店の非正規社員の人手不足割合は74.8%と高い水準であるとわかりました。正社員の人手不足割合は依然として56.5%と高止まりの状態が続いています。
業務の効率化を図って従業員の負担を軽減できれば、離職率の低下に貢献できるでしょう。
無駄なコストを削減して利益につなげられる
飲食店が業務効率化を図ることで、人材不足の解消だけでなく、コスト削減や利益向上にもつながります。
無駄な業務をなくしたり、業務や在庫等の管理方法を見直すことで業務効率が向上すると、次のようなコスト削減が期待できます。
- 人件費:効率的なシフト管理を実現する
- 食材費:フードロスを最小限に抑えられる
- 光熱費:業時間外作業の短縮により光熱費が削減できる
例えば、ITシステムやツールを活用することで、人が対応しなければならない業務を減らせるため、人件費削減につながります。スタッフの新規採用や人材教育にかけるコストを大幅に削減できるはずです。
また、業務の進捗状況や在庫状況などの管理もリアルタイムで共有できるようになるため、業務連携が強化され、スタッフ間のコミュニケーションも円滑になるでしょう。
近年では、原材料の高騰が続いており、値上げを強いられる飲食店も多く存在します。無駄なコストの削減に努めることで、メニューの値上げを回避できるかもしれません。価格を据え置いてメニューを提供することで、競争力を高められるのも大きなメリットです。
顧客満足度の向上・集客力アップにつながる
飲食店の業務効率化は、顧客満足度の向上や集客力アップに直結します。
飲食店の形態によって顧客が求めるサービスの内容は異なるものの、共通して求められているのは「スピーディーかつ丁寧なサービス」です。
従業員が業務に追われてしまい、接客対応が遅くなったり、おろそかになったりすると、顧客の不満につながるリスクが高まります。
業務効率化を図って業務負担を軽減できれば、従業員は余裕を持った丁寧な顧客対応ができるため、結果として顧客満足度の向上につながるのです。
また、業務効率化を図ることは、サービスの質を均一に保つためにも重要なポイントです。それぞれの従業員が異なる方法で業務を進めてしまうと、料理の質や接客方法にもばらつきが生じてしまいます。統一的なオペレーションを設定することで、一貫したサービスを提供しやすくなり、スムーズな店舗運営に貢献するのです。
その結果、サービスの質が高まることで、口コミやリピーターを増やせるため、長期的な集客力・売上アップにつながるでしょう。
飲食店の業務効率化を図るための解決策

飲食店を開業するにあたって業務効率化を推進するためには、ただ単に業務を削減するのではなく、業務内容そのものを見直したり、改善案を試したりしながら、業務の最適化を図ることが大切です。
飲食店の業務効率化を図るための具体的な解決策は、次のとおりです。
- オペレーションを細分化・役割分担をする
- キッチンの作業動線を整える
- ITツールを活用する
それぞれの内容をわかりやすく解説します。
オペレーションを細分化・役割分担をする
飲食店の業務を効率化するためには、業務オペレーションを細分化して、従業員間の役割分担を明確にすることが重要です。それぞれの従業員が対応すべき業務を把握できれば、無駄な動きを減らせるだけでなく、店舗全体の業務効率が向上するでしょう。
例えば、ホール業務やキッチン業務、バックヤード業務などの役割分担をさらに細分化できれば、重複する業務や無駄な出戻り・移動を減らせて、スムーズな流れで業務にあたれます。明確な分業体制を確立して、誰がどの作業を担当するのかが明確になることで、効率的な店舗運営につながるのです。
飲食店のオペレーションの効率を改善するためには、業務マニュアルの作成・共有が欠かせません。具体的には、次のようなマニュアルを作成しておくと安心です。
- 業務フローマニュアル
- 接客マニュアル
- キッチン業務マニュアル
- イレギュラー対応マニュアル
マニュアルを作成することで、作業手順が明確となり、すべての従業員が共通認識をもったうえで業務にあたれます。また、マニュアルに従って新人教育をすれば、教育の簡略化や説明漏れなどを防げるでしょう。
キッチンの作業動線を整える
飲食店の効率化を推進するためには、キッチンの作業動線を整えることが重要です。
スムーズな動線を確保するために意識すべきポイントは、次のとおりです。
- スムーズな調理のための配置
- 料理を提供するまでの動線
- 片付けや掃除をしやすい動線
キッチン内の動線が確保されていないと、従業員が無駄な動きをしなければならず、結果として業務が滞ってしまう恐れがあります。
調理しやすい位置に食材や器具を配置したり、冷蔵庫やコンロ、シンクの配置を効率的に整えたりなどの工夫が必要です。また、調理した料理をお客様に提供するまでの実際の動線を決めておくことで、効率性を高めることにつながります。
配膳をする従業員と片付けをする従業員が交差しないような動線や、ホコリや汚れを取りやすいような動線を意識することも重要です。
キッチンのレイアウトは、定期的に見直しを図り、より効率的なスタイルを常に模索していきましょう。
ITツールを活用する
飲食店の業務効率化を図るうえで、ITツールの活用が欠かせません。これまで人の手で行っていた業務や作業、管理などをデジタル化することで、多くの業務が自動化され、業務効率化を大幅に推進できるでしょう。
例えば、従来は紙ベースで行っていた食材や資材の在庫・発注管理や、来店予約の管理などをデジタル化すれば、作業のスピードが飛躍的に向上するだけでなく、人的ミスの軽減にも貢献します。近年では、電子決済システムやモバイルオーダーシステムなどを導入して、業務負担の軽減につなげている飲食店も増えてきました。
初期費用やランニングコストがかかるケースもあるものの、長期的にみると大幅なコストカットにつながるケースも少なくありません。飲食店開業をする際は、便利ツールやアプリなどのITツールの活用を積極的に検討してください。
飲食店の業務効率に役立つITツール
飲食店の業務効率に役立つ便利なITツールを厳選して解説します。具体的なツールやシステムもご紹介するので、新規開業を控える飲食店経営者の方は、ぜひ参考にしてください。
POSレジアプリ:売上データの一元管理で業務効率化
POSレジとは、「Point of Sales(ポイント・オブ・セールス)レジ」の略称で、売上データや商品の販売状況、在庫管理や顧客管理機能などをリアルタイムで把握できる便利なシステムのことです。近年スマートフォンやタブレットで使える高機能なPOSレジアプリが展開されています。
アプリによるレジは、従来の物理的なレジとは異なり、タブレット端末やPCに専用アプリをインストールするだけで手軽に利用できるため、初期費用やメンテナンスなどのコスト削減にもつながります。必要に応じて機能拡張できるシステムも多く、キャッシュレス決済やバーコード読み取り端末、レシートプリンターなど、店舗の利用方法に合わせて必要な機能をカスタマイズできる点も大きなメリットです。
さらに、顧客の属性などの記録にも対応しているシステムも多く、マーケティングツールとしても活用できるでしょう。
ツールの一例:スマレジ(株式会社スマレジ)
株式会社スマレジが提供する「スマレジ」は、iPadやiPhoneを利用すれば初期コスト0円から利用できるPOSレジアプリです。
主な特徴
- 1店舗のみなら月額無料で利用できる
- クラウド型だからいつでもどこからでも利用できる
- 売上分析、在庫管理機能などが利用できる
スマレジは、無料プランと飲食店に特化したプランを含む4つの有料プランがあり、店舗に合わせたプランを選択できます。1店舗のみなら月額無料で利用できるのが特徴です。クラウド型のPOSシステムのため、いつでもどこからでも店舗の状況をリアルタイムに把握できます。また「売上分析機能」や「在庫管理機能」などの機能も利用できます。
初期費用 | 無料 |
無料プラン | あり(1店舗のみ) |
有料プラン | プレミアム:月額5,500円 プレミアムプラス:月額8,800円 フードビジネス:月額12,100円 リテールビジネス:月額15,400円 |
公式サイト | スマレジ 公式サイト |
勤怠管理システム:シフト調整をスムーズに
勤怠管理システムとは、従業員の勤怠管理や労働時間、シフト作成・管理、給与計算などに対応できるシステムのことです。
タイムカードや出勤簿のように紙ベースでの勤怠管理では、リアルタイムに従業員の勤務状況を把握できません。集計した結果、残業時間の上限を超えてしまったり、必要な休日を与えていなかったりなどの問題が発生するリスクも高まります。
また、シフト作成や労働時間の集計作業にかけていた時間を軽減することで、本来集中すべきコア業務に専念できる点も勤怠管理システムを導入する大きなメリットです。
さらに、勤怠管理システムを導入すれば、従業員による不正打刻も回避でき、本来払う必要のない人件費の削減にもつながるでしょう。
ツールの一例:KING OF TIME(株式会社ヒューマンテクノロジーズ)
株式会社ヒューマンテクノロジーズが提供する「KING OF TIME」は、PCやタブレットなどのデバイスとインターネット環境が整っていれば導入できる勤怠管理システムです。
主な特徴
- 初期費用無料・料金システムがわかりやすい
- さまざまな打刻方法に対応している
- 最新のセキュリティシステムを導入している
KING OF TIMEは、初期費用無料で従業員1人につき月額300円というわかりやすい料金システムを採用しています。また、勤怠管理以外にも、人事労務や給与計算、年末調整、データ分析、システムログなど、さまざまなサービスを一律料金で利用できます。
店舗に設置したパソコンによる打刻だけでなく、スマートフォンやアプリなどの打刻にも無料で対応しています。
初期費用 | 無料 |
無料プラン | なし |
有料プラン | 月額300円(従業員1人あたり) |
公式サイト | KING OF TIME 公式サイト |
在庫管理ツール:食品ロスを削減し、コストカットを実現
在庫管理ツールとは、食材や飲み物などの過不足を把握するために、在庫状況や入荷状況などの情報を管理するためのツールです。
在庫管理ツールには、主に次のような機能が搭載されています。
- 品物の登録
- リアルタイムの在庫確認
- 店舗間移動の管理
- 発注点アラート
- 帳票の作成
食品ロスは、飲食店の利益を圧迫する大きな要因です。食材の賞味期限をはじめ、自店舗や他店舗の食材の在庫状況も自動で把握できるため、仕入れをするタイミングの最適化を図ったり、食材の無駄を防いだりなど、効率的な飲食店経営に欠かせないツールといえるでしょう。
ツールの一例:フーディングジャーナル(株式会社プロス)
株式会社プロスが提供する「フーディングジャーナル」は、飲食店向けの業務効率化を図るために開発されたクラウドサービスです。
主な特徴
- 必要な機能のみカスタマイズできる
- スマートフォンやタブレットなど幅広い機種に対応している
販売管理や勤怠管理、原価管理、損益管理など、幅広い機能に対応しています。在庫を管理する機能もあり、必要な機能のみカスタマイズできます。
スマートフォンやタブレットとインターネット環境があればすぐに導入できます。対応するデバイスが幅広いことも特徴です。
初期費用 | あり(要確認) |
無料プラン | なし |
有料プラン | 要確認 |
公式サイト | フーディングジャーナル 公式サイト |
予約管理システム:空席を減らし売上アップ
ネット予約・管理システムとは、顧客がオンライン上で予約ができるシステムです。店舗側は予約受付や管理業務を一元管理できるようになります。
顧客は電話をしなくても、いつでもどこからでもアプリや専用サイトを使って、店舗の空き状況や待ち時間をリアルタイムで確認できます。また、予約台帳のような紙ベースでの予約管理では、予約情報を記載する手間や予約状況を集約する手間が発生しがちです。ダブルブッキングや予約の取りこぼしなどが発生するリスクも高まります。予約受付と予約管理が一体となることで、こうしたリスクを減らすことができます。
ツールの一例:個人店のミカタ for Booking System(株式会社フードコネクション)
株式会社フードコネクションが運営する「個人店のミカタ for Booking System」は、初期費用や予約手数料無料で利用できる飲食店専門の予約管理システムです。
主な特徴
- 飲食店専門の予約管理システム
- 初期費用・予約手数料が不要
飲食店の予約管理に特化したシステムのため複雑な設定なしで導入が可能です。また初期費用が無料で予約手数料がかからないのが特徴です。
初期費用 | 無料 |
無料プラン | なし |
有料プラン | 月額3,000円(1店舗あたり) |
公式サイト | 個人店のミカタ for Booking System 公式サイト |
モバイルオーダーシステム:注文受付の業務を削減
モバイルオーダーシステムとは、顧客自身が専用アプリやWebページから注文をするためのシステムです。顧客は自身のスマホを使って注文ができるので、定員を呼んで注文を取りに来るのを待つ必要がなくなりますし、店舗にとってはホールスタッフが注文を受け付ける業務を削減できます。
顧客が注文した内容がそのまま厨房に通るため、注文受付から調理開始までの時間短縮はもちろん、注文の聞き違いによるトラブルを回避することにもつながります。
さらに、注文受付だけでなく決済機能を搭載したサービスもあります。
ツールの一例:CHUUMO(エフ・エス株式会社)
エフ・エス株式会社が提供する「CHUUMO」は、顧客のスマートフォンに専用アプリのインストールをする必要のないモバイルオーダーシステムです。
主な特徴
- 専用アプリのインストールが不要。ログインや会員登録も不要で利用できる
- 店舗の運営状況に合わせて利用プランを選択できる
テーブル上のQRコードをスマホで読み取り、ブラウザに表示されたメニューから注文を行うシステムです。専用アプリのインストールが不要なだけでなく、事前の会員登録や利用時にログインをする必要がないため、だれでもすぐに注文が可能です。
また注文受付だけでなく、決済機能が使えるプランもあります。
初期費用 | 要確認 |
無料プラン | なし |
有料プラン | LIGHTプラン:月額5,000円 BASICプラン:月額10,000円 PREMIUMプラン:月額15,000円 オンライン精算機プラン:月額9,800円 |
公式サイト | CHUUMO 公式サイト |
まとめ
飲食店の業務効率化は、店舗の売上向上だけでなく、スタッフの働きやすさや顧客満足度の向上にもつながります。
飲食店の業務効率化を図る際は、店舗に合った方法やITツールを選ぶこと、そして接客が無機質にならないように工夫することが大切です。
本記事でご紹介したITツールを上手に活用しながら、日々の業務負担の削減やより安定した経営を目指しましょう。