飲食店経営者が知っておきたい食品衛生と安全管理の基礎知識

飲食店を開業する際、食品衛生と安全管理は最も重要な要素の一つです。食品の安全性を確保することは、顧客の健康を守るだけでなく、店舗の信頼性を高め、長期的な経営の成功にもつながります。

本記事では、これから飲食店を開業する方々に向けて、食品衛生と安全管理の基礎知識を詳しく解説します。

目次

飲食店における食品衛生と重要性

飲食店における食品衛生とは

食品衛生とは、食品が生産、流通、調理、提供される過程での汚染を防ぎ、安全性を確保するための措置を指します。

飲食店において食品衛生の措置を行う目的は、食中毒や食品由来の健康被害を防ぐことにあります。これには、適切な温度管理、食品の取り扱い、従業員の衛生管理、害虫・害獣の防除など、様々な要素が含まれます。

加えて、飲食店では常に新鮮な食材を使用し、適切に保存しなければなりません。衛生管理の怠りは、顧客の健康被害につながるため、経営者としての責任が求められます。

食品衛生の重要性

飲食店は、食材の取り扱いや調理過程において細菌やウイルスが繁殖しやすい環境といえます。適切な衛生管理が行われないと、食中毒の発生や異物混入など、顧客の健康被害に及ぶ重大な事故が発生するリスクがあります。

特に食中毒が発生した場合、営業停止命令が下されることもあります。また、事故に対する補償など、金銭的な影響も大きく、店の存続にも関わりかねません。

また感染症の予防やアレルギー対策も重要です。近年では、アレルギー対応メニューの導入や、成分表示の明確化も求められるようになっています。

飲食店の食品衛生に関するルール

飲食店を運営する上で、食品衛生に関しては法律や営業に必要な許認可についてさまざまなルールが設けられています。どのようなものがあるか見ていきましょう。

食品衛生法

日本の食品衛生法では、飲食店が遵守すべき食品の取り扱い基準が定められています。食品衛生法は、食品の安全性を確保するための法律であり、食品の製造、加工、調理、保存、流通、販売、提供に関する規制を定めています。

食品衛生法の目的は、消費者の健康を守ることであり、これに違反すると厳しい罰則が科せられることがあります。また、飲食店は厚生労働省や地方自治体の指導に従い、最新の衛生管理基準を満たした上で、営業許可を受ける必要があります。

営業許可の取得

飲食店を開業するためには、営業許可を取得する必要があります。保健所に申請し、店舗の衛生基準を満たしていることを確認してもらう必要があります。どのような形態の飲食店、飲食物の取り扱いを行うかによって、求められる基準などが異なりますが、営業許可を取得するためには、共通して以下のような要件を満たす必要があります。

  • 調理場の設備が適切であること
  • 水道設備が整っていること
  • 食品の保存場所が適切であること
  • ゴミ処理設備が整っていること

これらの基準を満たした上で、保健所の審査を受ける必要があります。

食品衛生責任者の設置

各店舗には、食品衛生責任者を設置しなければなりません。食品衛生責任者は、所定の講習を受け、食品衛生管理の知識を習得することが求められます。

食品衛生責任者の役割は、食品の安全性を確保し、衛生管理を適切に行うことです。例えば、従業員の衛生指導や、食品の保存管理、厨房の清掃など、幅広い業務を担当します。

また、後述するHACCP(ハサップ:Hazard Analysis and Critical Control Point=危害要因分析重要管理点)を導入し、より体系的な衛生管理を行うことも求められます。

営業許可の取得、食品衛生責任者の設置についての詳細は、『保健所、消防、団体…飲食店の開業に必要な手続きと資格まとめ』の記事でも詳しく解説しているので、合わせてご確認ください。

飲食店に求められる衛生管理とは

ルールに従って営業許可を受けたのちも、飲食店の運営においては適切な衛生管理を行わなければなりません。そのポイントを見ていきましょう。

店舗の清掃と衛生管理

清潔な調理場や客席の維持は、食中毒を防ぐために重要です。定期的な清掃計画を立て、衛生管理を徹底しましょう。

清掃はこまめに行うことが望ましく、特に食品に触れる場所は、使用のたびに清掃を行う必要があります。また、使用する洗剤や消毒液の選定も重要であり、食品に害を与えないものを使用することが求められます。

設備によっては清掃頻度や清掃手順などが定められているものがあります。厨房機器メーカーの指示に従って、正しく清掃・管理を行うようにしましょう

衛生的な厨房設備の維持

厨房には、適切な換気設備、洗浄設備、冷蔵・冷凍設備が必要です。特に、換気設備の清掃が不十分で排気・換気の機能が不足していると、厨房内や店内に湿気や油煙などが溜まり、カビや害虫の発生原因となることがあります。定期的なグリスフィルター清掃などメンテナンスを行いましょう。

また、調理器具や食材の保管場所が適切であることも重要です。調理器具は、使用後にすぐに洗浄・消毒し、保管場所を清潔に保ちましょう。

従業員の衛生管理

従業員の衛生管理も重要です。特に従業員が体調不良の状態で働くことや、従業員を媒介しての汚染などが起きないよう、健康管理や業務における衛生上のルールを設定し、その実施を徹底するよう働きかける必要があります。

従業員の健康管理

従業員は出勤前に健康面のチェックを行い、体調不良時には業務を控えることが求められます。特に、下痢や発熱の症状がある際、原因が細菌やウイルスなど感染性のものの場合、店舗内やお客様への感染伝播に繋がりかねません。そのため体調に不安がある場合は業務を避けるべきです。これに加えて、ノロウイルスやインフルエンザなどの感染症が流行している時期には、従業員が感染していないか健康管理を行う必要があります。

手洗いと衛生習慣

衛生的な状態を保つには手洗いの徹底が必要です。調理や配膳の前後、トイレ使用後など、こまめに手を洗う習慣をつけましょう。手洗いは、流水と石鹸を使用し、最低でも20秒間行うことが推奨されています。また、手指消毒を併用すると、より効果的に細菌やウイルスを除去できます。

衛生的な服装

清潔なユニフォームやエプロンを着用し、長髪はまとめ、指輪やアクセサリーの着用を控えます。これにより、食品への異物混入を防ぐことができます。

ユニフォームは店舗でまとめてクリーニングを行うのか、従業員にユニフォームを貸与し、各自で洗濯してもらうのか、ルールを決める必要があります。このとき、各自で管理とした場合も、たとえば洗濯の頻度などを決めておけるとよいでしょう。

特に調理場担当はユニフォームやエプロンは汚れがちです。汚れた場合の替えを用意しておくなど、常に衛生的な服装でいられるよう準備しておきましょう。

食材の取り扱いと保管

食材は特に、生鮮品など衛生管理とともに美味しさを左右する鮮度維持を行う必要があります。仕入れ時の食材の確認と、仕入れ後の適切な温度管理、保存を行わなければ、食材の劣化や、それを起因とした食中毒の誘引リスクがあります。

食材の仕入れ

仕入れる食材の鮮度や品質を確認することは、食品衛生の基本です。仕入業者の選定においては、信頼できる業者を選び、定期的に品質チェックを行うことが重要です。

仕入れの際には、温度管理や包装状態をチェックし、腐敗の兆候がないか確認します。また、契約する業者が適切な衛生管理を行っているかどうかも重要な要素となります。仕入れ先とのコミュニケーションをしっかり取り、トレーサビリティ(生産履歴)の確認を行うことが望ましいです。

食材の保管方法

食材は適切な温度で保管する必要があります。冷蔵食品は10℃以下、冷凍食品は-18℃以下で管理するのが一般的です。また、乾物や調味料は湿気を避け、直射日光の当たらない場所で保管しましょう。さらに、食品ごとに適切な容器を使用し、密閉することで衛生状態を維持できます。

交差汚染の防止

病原菌が他の食材や調理器具などから付着してしまうことを「交差汚染」と言います。生肉や魚、野菜などを同じ場所で扱うと交差汚染が起こるリスクがあります。

それを防ぐためには専用のまな板や包丁を使用し、適切に洗浄・消毒を行うことが必要です。特に、生肉には食中毒の原因となる病原菌を含んでいることが多く、扱った後はしっかりと器具等の洗浄・清掃を行い、食中毒の原因となる細菌を除去することが重要です。

さらに、食品を保存する際には、異なる種類の食材が接触しないように整理整頓を徹底しましょう。

調理と提供の衛生管理

調理器具の清掃・管理が不十分だと、病原菌の繁殖や害虫の寄生など、汚染の原因となりかねません。調理器具の管理と調理そして提供時の注意点を見ていきましょう。

調理器具の管理

包丁、まな板、鍋などの調理器具は、使用後に適切に洗浄・消毒し、交差汚染を防ぎます。使用する調理器具は、食材ごとに分けることが望ましく、特に生肉・魚と野菜を同じ器具で扱わないようにすることが大切です。

調理時の温度管理

食品の温度管理は食中毒を防ぐために不可欠です。特に加熱調理を行う食品は、中心温度75℃以上で1分間以上の加熱が推奨されます。

また、冷却が必要な食品は、できるだけ早く適切な温度に下げることが求められます。調理済み食品の放置は細菌繁殖の原因となるため、提供直前まで適切な温度で保管することが大切です。

料理の提供時の注意点

料理を提供する際は、清潔な皿やカトラリーを使用し、異物混入がないことを確認しましょう。料理を運ぶスタッフの手指の衛生状態にも注意し、清潔な手袋の着用やアルコール消毒を徹底することで食品の安全性を確保できます。

害虫・害獣の防除

料理の材料や、調理された料理、さらに調理過程で生じた食材のカスなどは、虫や動物の格好のエサとなるため、飲食店はどうしても害虫・害獣の発生・繁殖源になりやすくなります。こうしたやっかいな害虫・害獣をおびき寄せないよう対策を講じる必要があります。

定期的な駆除と予防

飲食店では、害虫や害獣の発生を防ぐために、定期的な駆除を行うことが不可欠です。ゴキブリ、ネズミ、ハエなどは、食材の汚染原因となり、衛生管理上の大きな問題となります。専門業者による定期的な駆除を依頼し、清潔な環境を維持することが重要です。

侵入経路の封鎖

害虫や害獣は、わずかな隙間からでも侵入してきます。窓やドアの隙間を塞ぎ、排水口には専用のカバーを設置することで、害虫の侵入を防ぐことが可能です。また、食材の保管場所を定期的にチェックし、害虫の発生を早期に発見することが求められます。

HACCPの導入

HACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point)は、食品の安全を確保するための衛生管理手法で、危害要因を分析し、リスクを防ぐ重要管理点(CCP)を特定することで、食中毒や異物混入を防ぎます。日本では2021年6月より全飲食店にHACCPに基づく管理が義務化されました。

HACCP導入のメリット

HACCPを導入することで、以下の効果が期待できます。

  1. 食中毒リスクの低減:細菌や異物混入を防ぐ管理体制を構築。
  2. 衛生管理の標準化:従業員ごとのばらつきを減らし、均一な管理を実施。
  3. 顧客の信頼向上:安全性を保証することで、店舗の評価が向上。
  4. 法令順守の強化:食品衛生法の基準を満たし、規制対応が可能。
  5. トラブル対応の迅速化:問題発生時に迅速な原因特定と対処が可能。

HACCP導入のステップ

HACCPは7つの原則に基づき導入されます。

  1. 危害要因の分析:食材の仕入れ、調理、提供時のリスクを特定。
  2. 重要管理点(CCP)の設定:リスク管理の要となるポイントを決定。
  3. 管理基準の設定:安全な温度や衛生基準を数値化。
  4. モニタリングの実施:基準が守られているか定期的に確認。
  5. 是正措置の実施:基準を満たさない場合の対応策を策定。
  6. 検証(Verification):管理方法の有効性を定期的に評価。
  7. 記録の保存:衛生管理の記録を保持し、改善に活用。

HACCP導入のポイント

HACCP対応を導入したあとも、正しく運用を行える状況を作る必要があります。

  • 従業員教育:HACCPの基本知識を研修で習得。
  • マニュアル作成:チェックリストを活用し、一貫した衛生管理を実施。
  • シンプルな運用:店舗の規模に応じた管理体制を構築。
  • 定期的な見直し:新たなリスクに対応できるようHACCP計画を更新。

HACCP導入事例

あるレストランでは、食材の温度管理、調理時の加熱確認、提供後の適切な保管、日次の清掃チェックリストを活用し、食中毒のリスクを低減。こうしたHACCPの活用により、より安全な食品提供が実現できます。

怪我、食中毒、火災などへの対応

飲食店では、従業員の怪我、食中毒や異物混入、火災など、さまざまな事故が発生する可能性があります。事故が起こった際には、迅速かつ適切な対応を取ることが求められ、同時に顧客や関係者に対するリスクコミュニケーションも重要になります。ここでは、飲食店における事故発生時の対応とリスク管理について解説します。

事故発生時の基本対応

事故が発生した際には、被害の拡大を防ぐために、以下の手順を実施します。

  1. 状況の把握と初動対応
    事故の内容を正確に把握し、必要な応急処置を行います。たとえば、顧客が食中毒の症状を訴えた場合は、病院への受診を促し、提供した食品のサンプルを保管します。
  2. 関係者への報告と対応
    店舗責任者や本社(チェーン店の場合)、保健所へ速やかに報告します。食中毒などの健康被害が疑われる場合は、保健所の指示に従い、適切な対応を行います。
  3. 再発防止策の実施
    事故の原因を特定し、必要な改善策を講じます。例えば、調理器具の洗浄不備による食中毒が発生した場合、洗浄手順の見直しや従業員の教育を徹底します。

リスクコミュニケーションの重要性

事故発生時には、適切な情報開示と誠実な対応が求められます。顧客、従業員、関係機関とのコミュニケーションを円滑に行うことが、信頼回復につながります。

  1. 顧客対応
    事故の事実を隠さず、誠実に説明することが重要です。謝罪とともに、今後の再発防止策を伝えることで、店舗の信用を守ります。
  2. 社内コミュニケーション
    従業員にも事故の経緯と対応策を共有し、再発防止のための意識を高めます。事故後の研修やマニュアルの改訂を行うことで、同じミスを防ぐことが可能です。
  3. 保健所・行政機関との連携
    食中毒や大きなクレームが発生した場合は、保健所や消費者庁と連携し、適切な対応を取ります。報告の遅れは行政処分につながるため、迅速な対応が求められます。

事故を未然に防ぐための対策

事故が発生しないよう、日頃から以下の点に注意を払いましょう。

  • 従業員教育:衛生管理、緊急時の対応マニュアルを徹底する。
  • 定期的な設備点検:厨房機器や消火設備のメンテナンスを行う。
  • クレーム対応の強化:軽微な問題も放置せず、早期対応を心掛ける。

適切な事故対応とリスクコミュニケーションを行うことで、飲食店の信頼を守り、持続可能な経営を実現しましょう。

まとめ

食品衛生と安全管理は、飲食店の成功に直結する要素です。適切な衛生管理を実施し、安全で信頼される店舗運営を目指しましょう。

【参考文献】 

厚生労働省「食品衛生法の概要

消費者庁「食品表示制度

飲食店開業の厨房環境は
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