飲食店を開業するには、物件取得費、内装工事費、設備費、広告費など、多額のコストがかかります。開業を検討する多くの方が、これらの費用を少しでも抑えたいと考えるでしょう。
特に、開業時の初期費用(イニシャルコスト)を抑えることで、借入額が減り、利子負担も軽減できます。開業後の経営を安定させるためにも、無駄なコストを省き、効率的な資金運用を考えることが重要です。
本記事では、飲食店の開業資金を節約する具体的な方法を詳しく解説します。開業資金の相場や自己資金の目安、融資を受けやすくするポイントも紹介するので、これから飲食店の開業を予定している方は、ぜひ参考にしてください。
飲食店の開業資金の相場とは?

日本政策金融公庫が実施した「2023年度新規開業実態調査」によると、2023年度の飲食店開業費用の平均額は1,027万円、中央値は550万円です。
この結果を見ると、1,000万円規模の資金調達が必要となるため、飲食店の開業はハードルが高く感じるかもしれません。
しかし、上記の費用は、あくまで参考値です。開業に必要な資金は、店舗規模や立地条件、内装のこだわりによって大きく変動します。小規模店舗や居抜き物件を活用する場合は、1,000万円未満で開業することも十分可能です。工夫次第で初期費用を大きく削減できるでしょう。
開業資金の内訳
飲食店の開業には、さまざまな費用が必要です。具体的な内訳は以下のとおりです。
- 内装工事費
- 物件取得費(保証金、礼金、仲介手数料、前家賃)
- 厨房機器費
- 空調設備費
- 備品(食器、調理器具、ユニフォーム)
- 広告費
- 運転資金(家賃、光熱費、人件費、食材費など)
ちなみに、日本政策金融公庫の「新たに飲食業を始めるみなさまへ 創業の手引+」によると、飲食店開設費用として各項目が占める割合を、以下のように公表しています。
- 内外装工事費…40.8%
- 機械・什器・備品…20.6%
- 運転資金…20.6%
- テナント賃借費…17.2%
- 営業補償金・FC加盟…0.7%
初期費用のうち、「内外装工事費」が最も大きな割合を占めており、全体の40%近いコストになります。内装デザインや設備工事のこだわりによっては、この費用がさらに高額になることもあります。
また、「創業の手引+」には含まれていませんが、物件取得費も初期費用の大きな負担になります。一般的に、家賃の10か月分の保証金が必要とされるケースが多く、家賃が月額15万円の場合は150万円ほどの保証金を準備しなければなりません。
さらに、礼金、敷金、前賃料などを含めると、1年分の家賃相当の資金が必要になることを念頭に置きましょう。物件選びは慎重に行い、契約時の諸費用をしっかり把握しておくことが重要です。
飲食店の開業時に用意すべき自己資金の目安

日本政策金融公庫総合研究所の「新規開業実態調査」のデータによると、開業時の資金調達額の平均は1,180万円であると分かりました。
創業資金調達総額の内訳は、次のとおりです。
- 金融機関等…65.1%
- 自己資金…23.7%
- 親族…4.2%
- その他…6.9%
創業資金調達総額に占める自己資金の平均額は、280万円(全体の24%)となっています。また、一般的に新しい事業をスタートする際には、30〜50%程度の自己資金を用意しておくと安心だといわれています。なるべく多くの自己資金を準備しておくことが事業を成功させるポイントと覚えておきましょう。
自己資金として含まれるもの
飲食店を開業する際、自己資金をどれだけ準備できるかが融資審査の重要なポイントとなります。ここでは、自己資金に含まれる具体的な資金の種類を紹介します。
自己資金に含まれる主なものは、次の3つです。
- 自分名義の預貯金
- 退職金
- みなし自己資金
それぞれの内容について詳しく解説します。
自分名義の預貯金
自分名義の預貯金は、自己資金としてみなされます。
ただし、タンス預金や親族などから手渡しで受け取った現金といったように、お金の流れが明確でないと判断される預貯金は、開業費用として使うことはできますが、融資の審査の際の自己資金とはみなされないため注意が必要です。自分名義の預貯金であると証明するためにも、通帳に振り込んでもらう、もしくは記帳をして収支を記録しておきましょう。
退職金
飲食店を開業する目的で現在の仕事を辞める方も多いでしょう。退職時に退職金を受け取れる職場の場合は、退職金も自己資金としてみなすことが可能です。融資の申し込みをする際は、退職金の源泉徴収票を提示しましょう。
また、これから退職金を受け取る場合は、確実に受け取れるものであれば自己資金として認められるケースもあります。この場合は、退職金として受け取る予定の金額と振り込み期日を明確にした書類が必要です。退職する前に、勤務先に書類の作成を依頼してください。
みなし自己資金
みなし自己資金とは、融資を受ける前、創業準備ですでに使った自己資金のことです。
- 機械設備
- 商材
- 店舗を借りるための保証金や敷金
- フランチャイズ加盟金
- 会社設立費用
これらの費用を自己資金とみなしてもらうには、支払いを証明する領収書や振込証明書が必要です。口頭で説明するだけでは認められないため、必ず領収書や支払履歴を保管し、融資申請時に提出しましょう。
飲食店の開業資金を節約するポイント

飲食店の開業資金を少しでも節約したい場合は、次のポイントを意識して開業準備を進めましょう。
- 居抜き物件を中心に物件探しをする
- 間借りシステムやキッチンカーなどから事業をスタートさせる
- テイクアウト専門店として開業する
- 内装工事をDIYで対応する
- 中古設備やリース品を活用する
- 自ら集客や広告を行う
- 開業前に運転資金をシミュレーションする
- 国や自治体の補助金や助成金を活用する
それぞれのポイントを分かりやすく解説します。
居抜き物件を中心に物件探しをする
飲食店を開業する際の初期費用のうち、物件取得費と並んでコストがかかるのが「内装工事費」です。物件には前の借主の内装・設備が残された状態の「居抜き物件」と、内装工事が行われていない「スケルトン物件」があります。内装工事費を少しでも抑えたい場合は、居抜き物件を中心に物件を探していきましょう。
居抜き物件とは、最初から厨房設備や冷蔵庫、什器、テーブルなどが付いている物件のことです。前テナントが利用していた設備をそのまま受け継げるため、開業時の初期費用を大幅に削減できます。
一方で、スケルトン物件とは、前テナントの飲食店が利用していた設備や什器などが一切なく、壁・床・天井などが未仕上げで、配管や配線もむき出しになっている物件のことです。そのため、内装や外装工事はもちろん、空調ダクト工事、給排水設備など、さまざまな工事や設備購入の必要があるため、開業時のコストがより高額になりやすいといえます。
このように、スケルトン物件か居抜き物件を選ぶかによって、必要な開業資金は大きく変動するため、物件選びが開業資金節約の第一歩となるでしょう。
間借りシステムやキッチンカーなどから事業をスタートさせる
物件の取得費用や家賃、そして内装工事費などのコストを抑えたい場合は、間借りシステムを利用したり、キッチンカーで事業を始めるのもおすすめです。
飲食店における間借りとは、既存の飲食店の空いている時間帯やスペースを借りて、異なる飲食店を展開するビジネススタイルのことです。少ないコストで気軽に飲食店を開業できる方法として、初期費用を抑えて飲食店を開業したい方や独立開業を目指す方たちから注目を集めています。
また、キッチンカーを利用してビジネスを展開する方法も、初期費用を抑えたい方におすすめです。一般的な飲食店は、お客様の来店を待つという「受け身」の営業スタイルであるものの、キッチンカーはお客様がいる場所に出向いて営業できるため、コロナ禍をきっかけにより注目を集めるようになりました。
車両代やガソリン費、駐車場代などの費用はかかるものの、家賃や内装工事費などがかかる物件テナントとして開業することと比べると安い初期コストで開業できます。ワンオペ営業が基本であるため、人件費も安く済んだり、気軽に業態を変更できたりする点も大きなメリットです。
テイクアウト専門店として開業する
開業資金やランニングコストの両方を抑えるためには、持ち帰りに特化した「テイクアウト専門店」として開業するのも一つのポイントです。コロナ禍をきっかけにリモートワークが普及したり、テイクアウトの方がイートインよりも安く利用できたりすることから、テイクアウト専門店の需要が年々高まっています。
テイクアウト専門店であれば、イートインスペースが不要で、狭い店舗でも運営できるため、家賃はもちろん、人件費やイスやテーブル、食器などの備品費なども大幅に削減できるでしょう。
内装工事をDIYで対応する
飲食店の開業資金を少しでも節約したい方は、内装工事をDIYで対応することも検討しましょう。
もちろん、電気や水道、ガスといった配管工事は、有資格者が対応しなければならないため、専門家に依頼しなければなりません。しかし、内装工事のなかでも、壁や床、照明器具の交換などは、知識やスキルがない方でも比較的挑戦しやすいものです。DIYで対応する場合は、専門業者に依頼するよりも日数がかかるケースがほとんどのため、余裕を持ったスケジュールで対応していきましょう。
中古設備やリース品を活用する
飲食店を開業する際は、新品ではなく、中古設備の購入やリース品の利用を検討するのも一つの方法です。
冷蔵庫や厨房設備、エアコンといった大型の設備などは、まとまった費用がかかるものです。もちろん、中古設備は、新品に比べて故障や破損するリスクが高く、早いタイミングで交換時期を迎えてしまうものの、売上が安定しないうちは、中古設備を活用して、軌道に乗ったタイミングで新品への買い替えを検討しましょう。
また、設備を購入せずにリース品を活用することもできます。リースの場合は、月々定額のリース料を支払うことで設備を利用できるため、開業時にまとまった資金を確保する必要もありません。ただし、リース品を長期間利用する場合は、購入する場合よりも割高になる恐れもあります。リースする機材と利用を予定する期間などを踏まえて、コストパフォーマンスの高い方法を選択してください。
自ら集客や広告を行う
飲食店を開業する際は、お客様に認知してもらうための集客活動や広告活動に力を入れなければなりません。この集客や広告も、開業資金を節約するポイントの一つです。
ホームページやSNSの公式アカウントを作成して自分でPR活動に励んだり、チラシを制作してポスティングをしたりすれば、コストを抑えた集客を目指せるでしょう。なかでも、SNSは無料で利用できるケースが多く、さまざまな情報をリアルタイムで発信できるため、おすすめのPR方法です。
新規オープンの日をはじめ、営業時間や定休日、メニュー、料理や店内の写真、キャンペーン情報などを積極的に掲載していきましょう。
開業前に運転資金をシミュレーションする
飲食店を開業する際には、さまざまな運転資金が必要です。具体的には、次のような資金が挙げられます。
- 材料費:提供する料理の材料費
- 水道光熱費:電気代、ガス代、水道代
- 家賃:店舗の家賃、管理費など
- 通信費:インターネット代、電話代など
- 広告費:ホームページ・SNS運用費、チラシ作成費など
- 車両費:駐車場代、ガソリン代、有料道路通行料、車検代、自動車税など
- 保険:火災保険、賠償責任保険、就業不能保険など
- 税金:所得税、住民税、消費税、個人事業税など
- 人件費:給与、福利厚生など
- その他:修繕費、衛生管理費、備品、消耗品など
開業時、もしくは開業後の運転資金を少しでも節約したい場合は、以下のポイントを押さえることが大切です。
- 仕入原価・仕入先を見直す
- 食材のロスを削減する
- 固定費を削減できないかを考える
近年は、原材料費の高騰が顕著となっており、仕入原価を見直すことが大切です。少しでも安値で取引できる仕入先を探していきましょう。
また、飲食店にとって、食品ロスをなくす取り組みは、事業を継続させるために欠かせないポイントです。食品ロスとは、本来食べられるのに捨てられてしまう食品のことで、売れ残りや食べ残し、賞味期限切れなどが原因で発生します。
飲食店として食品ロスをなくすためにも、メニューの量を選択できるシステムや在庫管理システムの導入を検討してください。
さらに、運転資金の削減をする際に見直すべきなのが「固定費」です。光熱費などを自由化プランに変更したり、保険の契約内容を見直すなど、固定費を長期的に減らせるよう工夫しましょう。
国や自治体の補助金や助成金を活用する
開業資金を少しでも確保したい方のなかには、国や自治体の補助金や助成金の利用を検討している方もいるでしょう。
しかし、結論からお伝えすると、飲食店の開業資金として補助金や助成金は使えません。なぜなら、補助金や助成金は、すでに事業を開始している事業者が特定の条件を満たしたときに支給されるものだからです。開業時の資金を補填するための制度ではないため注意しましょう。
開業後、新たな調理設備の購入、業務の効率化・セキュリティ強化のためのITツールの導入、高齢者や障害者などの雇用、などといった特定の取り組みに対して補助金や助成金が適用されるケースがあります。明確な目的があり、それを達成するための資金が足りない場合は、補助金や助成金の活用も検討してみましょう。
ただし、各都道府県・地方自治体が実施している「創業者向け補助金・給付金」は、飲食店を開業する際に活用できる可能性があります。対象や利用条件は、各都道府県や地方自治体によって異なりますが、飲食店を含む新規事業をスタートする方を対象に給付金や融資が行われるため、詳しい内容については各都道府県や地方自治体のホームページを確認しましょう。
飲食店の開業時に融資を受けるためのポイント

新規事業の開業資金のうち、多くを占めるのが金融機関からの融資です。日本政策金融公庫(いわゆる公庫) が実施した「2023年度新規開業実態調査」によると、開業資金のうち平均で65%を金融機関からの融資によって調達しているとわかりました。
しかし、飲食店は新規開業する事業として人気の業種である一方で、廃業率も高い業種でもあります。「経営が難しい」と金融機関に判断されてしまうと、融資を受けられない恐れもあるでしょう。
そこで、飲食店の開業時に融資を受けるためには、次のポイントを意識することが大切です。
- 事業計画書を綿密に作成する
- 自己資金をなるべく多く準備する
- 必要な額の融資を申し込む
それぞれの内容を分かりやすく解説します。
事業計画書を綿密に作成する
飲食店を開業する際の資金調達のために必要となるのが「事業計画書」です。
事業計画書とは、事業内容や収支計画を見える化するものであり、創業する動機や目的、経営者やオーナーの職歴、事業実績、そして取り扱う商品やサービスについて具体的に記載します。
融資を申し込む際には、オープン予定の飲食店のコンセプトや強み、ビジネスの具体的、かつ明確なプランを記載して、新事業の成功可能性を伝えることが重要です。
自己資金をなるべく多く準備する
飲食店を開業する際に、自己資金が少ない、もしくはないことを理由に融資を受けたいと考える方も多いはずです。しかし、自己資金が少ないことを理由に資金管理能力や計画性が低いと見なされ、融資を断られてしまうケースもあります。
飲食店を新規開業する際は、創業資金の3割程度は用意しておくと融資を受けやすくなります。
ただし、融資を申し込む際に自己資金を一時的に多く見せるために借り入れて融資実行後に返済をする「見せ金」は自己資金として認められないため注意してください。
必要な額の融資を申し込む
融資の申請をする際は、必要な金額のみを申し込んでください。融資の必要性を証明できなければ、審査に通らない恐れが高まります。多くの資金の融資を受けられたとしても、融資後の返済に苦労するケースも少なくありません。
必要な額の融資を申し込むためにも、事前の資金シミュレーションを行い、根拠のある融資額を提示してください。
まとめ
飲食店を開業する際はまとまった資金が必要ですが、工夫次第で大幅に節約できるものです。
居抜き物件を活用したり、事業形態を見直したり、さらには補助金を利用したりなど、事業の形態に合わせてさまざまな方法を組み合わせながら無駄なコストを抑えてください。節約した資金を開業後の運転資金や集客・広告費に活用することで、事業の継続性も高まるはずです。
持続可能な経営のためにも、正しい資金計画と節約術を試して、飲食店の新規事業を成功させていきましょう。