飲食店を経営する上で、安定した集客を維持するためには地域のお客様から愛されることは欠かせません。特に小規模経営の飲食店は、大手チェーン店のようにたくさんの資金を使って広告宣伝を行うことは難しいですが、地域のお客様にファンになってもらい、地元で人気の飲食店となれば、宣伝コストをかけずとも長きにわたって集客・来店が期待できます。
本記事では、地域とつながることで得られるメリットの整理と、地域に愛されることで集客につながる「地域密着型マーケティング」の実践方法について、具体的に解説していきます。これから飲食店を開業する方はもちろん、既存店舗の集客力にお悩みの事業主の方もぜひ参考にしてください。
飲食店が地元とつながる「地域密着型マーケティング」

地域密着型マーケティングとは、広域的な認知を獲得する広告宣伝に頼るのではなく、地元の人に認知され、良い評判を得ることで「地元の人気店」となるためのマーケティング手法を言います。マーケティングというとテクニックのようにも聞こえますが、地元に愛されるために地道に行う営業努力そのものです。
地域密着型マーケティングを実践することで、単なる飲食店としてだけでなく、地元になくてはならないお店としての価値や役割を期待されることにも繋がります。まずは地域に愛されるお店になることでどのようなメリットが得られるのか見てみましょう。
安定した集客が見込める
地域住民が定期的に来店すれば、観光客や一見客を狙った広告宣伝に頼らず、地元のリピーターを基盤とした集客が可能になります。これにより、季節やトレンドの影響を受けにくくなり、安定した集客と売上の確保が期待できます。
クチコミによる集客が期待できる
「子連れでも行きやすい」「魚料理ならここが一番」といった地域の人々の紹介は、信頼性の高いクチコミとして評価されます。旅行者が検索で飲食店を探す際、こうしたクチコミは行き先を決める重要な要素となります。また、ローカルメディアに取り上げられた際も「本当に美味しいよ」といった、地元から認知度の高いメディアからの後押しが得られやすく、認知度向上につながります。
メディアに取り上げられやすくなる
地域密着型の店になることで、メディアに取り上げられやすくなるのも大きなメリットです。特に「地元特産品を使った人気店」や「地元企業とのコラボ」など、地域に根ざしたユニークな取り組みは、新聞・テレビ・地域情報誌などで紹介されやすくなります。
こうした地域密着型のマーケティングを実践し、地域に愛されることで、集客の安定化だけでなく、「地域を代表する店」としての地位を確立できるのも魅力です。
地域に愛される飲食店の特徴

地域に愛される飲食店には、料理の美味しさだけでなく、いくつかの特徴があります。地域密着型マーケティングを成功させるためにも、具体的なポイントを見ていきましょう。
リピーター・常連客が多い
「うちは常連さんが多い」と言える飲食店は、地域密着型マーケティングが成功している証拠です。リピーターを増やすことこそ、持続的に人気を維持する最大の要素となります。近隣に常連客の多い飲食店があれば、そのマーケティング手法を参考にしてみましょう。
地域イベントを活用したブランド構築ができている
フードフェスティバルやマルシェなど、地域イベントへの出店は、飲食店のブランディングに最適です。イベントのスポンサーになったり、限定メニューの開発など、積極的にイベントに参加している飲食店は、地域の人々に強い印象を与えます。
クチコミを生む仕組みが整っている
特に小規模な飲食店にとって、クチコミは最強の広告です。地域密着型マーケティングを実践する店は、自然発生的なクチコミにだけ頼るのではなく、SNSを積極的に活用しています。Instagramやグルメサイトで料理や店内の様子を発信し、たとえば立地が分かりにくい場合は経路案内を投稿するなど、クチコミを生み出す戦略を取り入れています。
地元の食材や文化を活かしたブランディングができている
地域に愛される飲食店の多くは、地元の特産品を積極的に取り入れています。例えば「〇〇町産のトマトを使ったパスタ」など、メニューに特産品を盛り込むことで、他店との差別化を図り、独自性を高められます。また、地域ブランドとの相乗効果により、地元客だけでなく観光客への強いアピールにもなります。
地域の人とつながる仕組みがある
地域に愛される飲食店は、地域住民とのコミュニティを築き、地域貢献活動にも積極的に取り組んでいます。例えば、子ども会や老人ホームのイベントで料理を提供したり、町内の清掃活動に参加するなど、地域に根付いた「なくてはならない存在」となることで、長く愛され続けるお店へと成長していきます。
地域に愛される飲食店になるために地元とのつながりを活かす方法

ここからは、より具体的な地域密着型マーケティングの実践方法として、地元とのつながりを活かして地域に愛される飲食店になるポイントを解説します。
地方であれば立地に頼らない集客を行う
地方や小さな町で飲食店を経営する多くの事業者は、「集客の難しさ」に直面します。都市部のように自然と人が集まる環境ではないため、新規顧客の獲得には工夫が必要です。「新しい店ができたらとりあえず行ってみるが、馴染みの店に戻ってしまう」といったケースも多く、ただ集客するだけでなく、たとえば来店回数に応じたポイントやインセンティブを用意するなど、リピーターになってもらうための工夫も必要です。立地に頼らずに店の存在を認知してもらう方法、常連になってもらう仕掛けを考えておきましょう。
地域のニーズを知ることが成功の鍵
地域で愛される店になるには、地域のニーズを正しく把握することが重要です。その地域に住むのはどんな層で、どのような用途・メニューの飲食店が求められているのかをリサーチし、そこにマッチするお店になれれば、その地域にとって「こんなお店が欲しかった」と言われるお店になれるでしょう。具体的には以下の3点を意識しましょう。
- どんな人が多く住んでいるのか(年齢、職業などの属性、世帯構成など)
- どんなニーズの飲食店が求められているのか(会社員のクイックランチ、家族や友人とのグループでの食事、接待や会合など大人数での飲食など)
- ニーズのある時間帯や価格帯(リーズナブルな平日ランチ、ファミリー向けの週末ディナーなど)
周辺の客層や、混雑する時間帯や求められる価格帯は比較的分かりやすい要素です。競合店の動向を調査したり、顧客ターゲットの観察を行うなどでマッチ度を高めて常連客の定着につなげましょう。例えば、昼間の利用者が多い地域では、ランチ営業を中心に戦略を立てることが重要です。また、メニューを地域の嗜好に合わせてローカライズすることで、親しみやすい店づくりができ、地域密着型マーケティングの効果を高められます。
地元の人々との交流を深める
地域とのつながりを活かすには、積極的にローカルコミュニティへ関わる姿勢が重要です。特に地方の飲食店は、コミュニティの拠点としての役割を担うことが多くなります。拠点として選ばれるためには、フレンドリーな接客だけでなく、地元住民との信頼関係を築くことが欠かせません。具体的な方法として、以下のような取り組みが挙げられます。
- 地域住民や地域のグループと接点を持つ
- 定期的にイベントやキャンペーンを実施する
- 顧客のリクエスト・要望に応える
ネットワークを強める方法はさまざまです。例えば、店内に地域の掲示板を設置し、イベント情報やチラシを掲載することで、地域の人のつながりを築けます。また、近隣の飲食店と連携してイベントを開催したり、料理教室やワークショップを開いたりするのも効果的です。さらに、地元住民からのリクエストには、可能な範囲で柔軟に対応することで、地域が求めているニーズに答えられるようになります。
地元食材を活用したメニュー開発
地元食材や特産品を活用することは地元貢献度が高く、地域の人々からの信頼を得やすくなります。具体的には、以下のような方法で地元食材を積極的に活用していきましょう。
- 地域の生産者と連携する
- 季節限定メニューを導入する
- 生産者の紹介も加える
地域の生産者との連携を取ると、食材の新鮮さや品質が向上し、仕入れコストの削減にもつながります。また、旬な食材を使ったメニューを季節ごとに提供することは、顧客にとって楽しみの一つであり、来店するきっかけです。
これから開業する人向け|地域密着型マーケティングを活用した開業ステップ

飲食店の開業を考えている方にとって、地域密着型マーケティングをどのように実践すべきかは大きな悩みどころです。ここからは、地域密着型マーケティングを活用した開業ステップを解説します。
ステップ1:地域の市場調査
飲食店開業を成功させる第一歩は、地域の市場調査です。丁寧な調査を行うことで、開業後の方向性が明確になり、無理なく地域に溶け込む店づくりができます。
特にこれまで地縁のない地域や、属性の異なる地域で出店を検討する場合は前述のとおり、周辺に住んでいる人・来店が見込まれるターゲット層の属性や、飲食の用途、混み合いそうな時間などをリサーチし、想定することが大切です。また、地域のニーズを把握したら、同じような客層・用途をターゲットにした競合店の有無や繁忙状況などもチェックしておきましょう。
大きな地域では顧客ターゲットを絞った集客戦略も有効ですが、人口の少ない地域では絞り込みすぎると逆効果になることもあります。地域規模が小さいほど、幅広いターゲットを意識したコンセプト作りが必要となる場合が多いです。一方で、例えば「一人暮らしのアパートが多いエリア」なら、テイクアウトやデリバリー需要が高まる可能性があります。
このように、地域密着型マーケティングでは、地域ごとの特性を深く理解し、店のコンセプトやメニュー展開に細かく活かすことが成功のカギとなります。
ステップ2:地域のネットワークを築く
前述の通り、地域で愛される飲食店になるには、ローカルコミュニティとのつながりを深めることが欠かせません。人間関係の構築は難しく感じるかもしれませんが、一歩ずつ進めることで、地域のネットワークの一員として認められるようになります。
まずは、自治体や商工会に加入し、地域の事業者との関係を築くことが第一歩です。最初は少人数のつながりでも、そこから仕入れ業者を紹介してもらったり、顧客をお互いに紹介し合ったりと、ネットワークは自然と広がっていきます。
「開業して落ち着いてから」と考えるのではなく、準備段階から積極的にコミュニティに関わることで、地域住民の認知度が高まり、紹介やサポートを受けやすくなります。
ステップ3:ローカルブランディングの確立
地域に愛される飲食店は、観光客や偶然訪れた人にも、その土地ならではの魅力が伝わるコンセプトを持っています。例えば、看板に地元の食材を使ったメニューを大きく掲げることで、「この店ならこの町の味を楽しめる」と感じてもらえます。
また、地域の伝統を取り入れた創作料理は、地元の人々の共感を得やすく、地域に根ざしたブランドを築くことにつながります。こうしたローカルブランディングが確立されると、地元メディアやSNSでも話題になりやすく、競合店との差別化が図れるため、開業後の大きな強みとなるでしょう。
ステップ4:地域密着の集客施策を考える
飲食店が周辺地域で認知度を高めるには、Googleマップ、SNS、クチコミ、ローカルメディアを活用するのが効果的です。
Googleマップでは、店舗情報を最新に保ち、写真や口コミを充実させましょう。SNSでは料理や店内の写真を投稿し、地元のインフルエンサーと連携するのも有効です。クチコミを増やすためには、レビュー特典を設けたり、LINE公式アカウントで投稿を促すと良いでしょう。さらに、地元のニュースサイトやフリーペーパーに情報提供し、地域イベントに参加することで、自然に店舗の認知を広げられます。
こうした工夫を積み重ねることで、低コストで集客につなげることができます。
既存店舗向け|地域密着型マーケティングの振り返りと施策
ここからは、集客に伸び悩んでいる飲食店の事業主様に向けて、地域密着型マーケティングの振り返りと施策について、詳しく解説していきます。
振り返りポイント1:ターゲット設定の再確認
現時点での顧客層が想定通りかどうか見直しましょう。年齢層ごとのリピート率や来店時間帯を分析し、顧客層に合ったプロモーション展開ができているかを振り返ることが重要です。やみくもに施策を試していくよりも、先にターゲットのズレを修正した方が、より適切な集客施策を打つことができます。
振り返りポイント2:リピーター施策は十分か
飲食店の売上を安定させるために欠かせないのがリピーターの存在です。データによると、顧客はリピート回数が増えるほど、その後の来店率も高くなる傾向があります。例えば、新規顧客が2回目の来店をする確率は約20%ですが、3回目まで来店した顧客が4回目に訪れる確率は90%とされています。
一方で、「何度か来店していたお客さんを最近見かけなくなった」という経験がある事業者も少なくありません。リピーターの離脱を防ぐためには、来なくなってしまう理由を把握し、適切な対策を講じることが重要です。
例えば以下のように、想定される「リピートしなくなる理由」に対する施策を、しっかりと取っていきましょう。
- 価格やメニューの変更:コストパフォーマンスの見直しを行う
- 競合店との比較:十分な差別化ができているか再確認する
- サービスの質の低下:従業員によるサービスの質に差がないか確認する
- 新鮮さの欠如:季節限定メニューやイベント、キャンペーンなどの見直し
飲食店のリピーターは特定のメニューを好む傾向があり、急なメニュー変更や料金の値上げが来店離れの大きな要因となります。仕入れ価格や人件費の高騰といった課題は避けられませんが、ポイントカードやクーポンなどの常連客向け特典を充実させることで、影響を和らげる工夫が必要です。
改善施策1:地域密着型キャンペーンの実施
「地元客が少ない」と感じるケースにおいては、地元の人が行きたくなる理由を作ることが重要です。具体的な改善施策には、地域のイベントやお祭りへの出店、近隣の学校や企業と連携した団体割引や特別メニューなどがあります。記事内で解説した「地域に愛される飲食店の特徴」に自店が当てはまるかどうかを振り返り、適切な施策を打っていきましょう。
改善施策2:クチコミを増やす工夫
特に地域密着型の飲食店では、地元の評価が来客数に直結します。口コミを活用し、自然と話題にしてもらうには、まず口コミが生まれやすい環境を整えることが大切です。
例えば、店内に撮影スポットを設けたり、SNS映えする料理を考案したりすることで、「地元のおすすめ店」として紹介されやすくなります。ただし、極端にSNS映えを意識する必要はなく、自店のコンセプトに合った雰囲気や料理の見た目にこだわることが重要です。
また、「友人を連れてくると次回ドリンク無料」といった紹介キャンペーンも、口コミの拡散に効果的です。さらに、InstagramやXなどの集客チャネルを活用している場合は、ターゲット層に合ったプロモーションができているかを確認しましょう。
改善施策3:メニューの見直し
地域の住民をターゲットにする場合、現在のメニューが顧客のニーズに合っているかを精査することが重要です。
例えば、ファミリー層の来店が見込まれるのに子ども向けメニューがない、ランチ需要があるのに日替わりメニューがない、午後のティータイムに女性客が多いのにカフェメニューがない、といった状況では、本来獲得できるはずの需要を逃している可能性があります。
ターゲット層の利用ニーズを見極め、それに合わせたメニュー構成にすることで、地域の人々にとって利用しやすい店として認識されるでしょう。
リピーター、クチコミ獲得については、『飲食店を開業するために必要な資格、失敗しない経営のコツとは?』の記事でも詳しく解説しているので、合わせてご確認ください。
まとめ
地域密着型マーケティングを活用することで、開業時の成功率を高めたり、既存店の集客を安定させることができます。地域とのつながりを強め、長く愛される飲食店へと成長していきましょう。