ラーメン店を開業する夢を実現するためには、物件選びや設備の整備、効果的な集客手法など、押さえておくべきポイントが数多くあります。ラーメン業界は激しい市場競争が繰り広げられ、成功の鍵を握るのは綿密な準備と経営戦略です。本記事では、ラーメン店の開業を成功へと導くための要点を分かりやすく解説していきます。やみくもに準備を進めるのではなく、流れに沿って1つずつ進めていくことが、成功への第一歩です。
ラーメン店業界の市場動向
日本国内だけでなく世界でも人気を高めているのがラーメンです。業績をぐんぐん上げているラーメン店がある一方で、倒産件数も増加しているのが現状です。東京商工リサーチの調査(※1)によると、2023年度のラーメン店の倒産件数は前年度の2.7倍増で、過去最多となりました。
数多くある飲食業界の中でも、ラーメン店は特に競争が激しく、認知を獲得し、安定的な客数を保ち続けるのは、簡単なことではありません。「ラーメンが好きだから」「美味しいラーメンを提供したい」という気持ちは大切ですが、事業として経営を成り立たせていくためには、計画的な開業が重要なポイントとなるでしょう。
開業を考え始めたばかりの方は、何から始めていいのか分からない状態かもしれませんが、まずは記事内で解説していく「事業計画」「物件選定」「設備導入」「集客」におけるポイントと注意点の理解を深め、1つずつ丁寧に進めていきましょう。
※1 「「ラーメン店」の倒産、過去最多の63件 前年度の2.7倍に急増」(東京商工リサーチ 2024/04/05)
ラーメン店を開業する第一歩は事業計画
ラーメン店を思い立った勢いだけで開業してしまい、その後の経営が上手くいかず閉店するケースは少なくありません。経営まで見据えた準備を整えることが重要ですが、その第一歩となるのが事業計画です。注意すべきポイントを押さえた事業計画を作成し、スケジュール管理や資金調達に役立てていきましょう。
明確なコンセプトを立てる
開業しても経営が上手くいかず、すぐに閉店してしまうラーメン店にありがちな失敗が、「コンセプトが曖昧なまま開業した」ということです。飲食店におけるコンセプトとは、お店が提供する価値や方向性であり、メニューから内装に至るまで、一貫したコンセプトに沿っていることが重要なポイントです。明確なコンセプトがあれば、お客様は「どんなお店か」「どんなタイプのラーメンが食べられるのか」をイメージしやすく、集客や知名度の向上にもつながります。
コンセプトを作成する基本は、何を売るのか(WHAT)、何のために(WHY)、誰に(WHO)、いつ(WHEN)、どこで(WHERE)、どのように(HOW)、いくらで(HOW MUCH)の5W2Hの観点を具体的に決めながら進めていきます。また、ラーメン店を成功させるためには、出店エリアの競合と一線を画すユニークなコンセプトの設定も忘れてはいけません。
具体的には「魚介系スープ専門」や「地元食材をふんだんに使用したオリジナルラーメン」などのテーマを設け、自店の強みを明確にすることが重要です。コンセプト作成は単なる自店の方針設定ではなく、来店動機を生み出し、ターゲット客層に直接訴求できる強みへとつながります。
開業資金計画
開業前の事業計画では、「開業にいくらかかるか」「かかる費用の内訳」など、開業資金計画も含めていくことが重要です。まずは初期費用として、以下の内訳で具体的な費用を算出していきましょう。
- 物件取得費、保証料
- 内装工事費
- 厨房機器、調理設備
- テーブルや椅子などの家具備品
- 初回の仕入れ資金
- 広告宣伝費
上記した費用をそれぞれ見積り、資金調達の方法を考えます。ラーメン店は必要となる厨房設備や排水設備にコストがかかるため、通常の飲食店より初期費用が高額となることが多く、1,000万円〜1,500万円程度の初期費用が必要となるケースが一般的です。自己資金に加えて銀行からの融資などを検討しましょう。開業時に使える助成金・補助金があれば活用を検討します。地方自治体のホームページやポータルサイトの検索、商工会・商工会議所への相談などで情報を得ましょう。
また、ラーメン店を開業したあとの「運転資金の確保」も注意すべきポイントの1つです。売上が不安定な開業直後の家賃や仕入れ代、人件費などに備え、3~6ヶ月分の予備資金を備えておくことが理想です。開業直後の不安定な期間を乗り越える資金がなければ、軌道に乗る前に資金不足に陥るリスクがあります。事業計画書の作成で、細部まで費用を洗い出し、見落としを防いで予算オーバーにならないようにしましょう。資金計画を万全に整えることは、開業後の経営安定の土台です。
ラーメン店開業に向けた物件選びのポイント&注意点
ラーメン店開業で重要な要素が「物件選び」です。物件選びは初期費用だけではなく、開業後の経営にも多大な影響を与えます。立地や賃料、周辺環境などを調査し、戦略的に選ぶことで、集客力や売上を最大化できるでしょう。ここでは、立地選定のポイントと賃料・契約条件の確認、店舗レイアウトの工夫について解説します。
立地選定・調査をしっかり行う
物件選びでは、まずは立地の調査と選定をしっかり進めていきましょう。ラーメン店において、立地選定は集客力に大きく影響します。立地から物件が持つ集客力を見定めることが出来るため、立地の特徴を細かく捉えていくことがポイントです。たとえば、駅周辺の立地は、学生やビジネスパーソン、観光客など幅広いターゲット層の集客が見込まれる一方で、賃料は高額になります。
そのため、単純な集客力だけでなく、費用対効果のバランスも見極めなければなりません。オフィス街ではスピーディーに出せるランチセットを充実させたり、住宅街では子供向けのメニューも提供するなど、立地に合わせたサービスを考えていくことで、リピーターを増やすことができるでしょう。また、そのエリア周辺の競合調査も欠かせない要素です。メニューや価格帯、サービス内容を細かく分析し、自店の強みの打ち出し方を検討してください。
居抜き物件でコストを抑える
ラーメン店の開業費用を抑えたい場合には、居抜き物件を選ぶのも1つの方法です。居抜き物件とは、前の店舗が使っていた設備や内装がそのまま残っている物件のことです。残されている設備の状態によって異なりますが、ラーメン店に必要な厨房機器や水道設備が残っているケースも多く、内装工事や厨房機器導入にかかるコストを大幅に抑えることができます。
ただし、居抜き物件の場合、厨房機器の配置や動線、飲食スペースの広さや席数などを、基本現状のまま利用することになるという制限があります。導入したい設備や店舗レイアウトの内装にこだわりたい場合は改修を行うことになります。また現状の設備が老朽化していたり臭いや汚れが残っているなどの場合、清掃や修繕が必要となります。物件の契約条件によっては改装に制限がある場合もあります。設備を含めて物件の状況や契約内容をよく確認しておくことが重要です。
小さな物件を選ぶ場合の注意点
平均的なラーメン店の広さは15坪以上ですが、カウンター席のみの店舗も珍しくなく、その場合は10坪以下でも開業可能です。初期費用や家賃を抑えるために、10坪以下の小さな物件でラーメン店の開業を考えている方も少なくないでしょう。小さな物件には、コスト削減以外にも、管理のしやすさや効率的な動線が作りやすいなどのメリットがあります。また、お客様とも顔なじみになりやすく、地域密着型の店舗として、リピーターを作りやすい環境にもなるでしょう。
一方で、ラーメン店はスープ作りや煮込みでスペースが占められることも多くあります。小さな物件で効率的に作業をしていくためには、運営上の工夫が必要となります。また、開業後の集客が順調に進んだ場合、スペース不足が売上の足枷となったり、短時間での回転率確保が求められたりなど、マイナスに影響する可能性があることも、注意点です。
ラーメン店開業に向けた設備導入のポイント&注意点

ラーメン店の開業に向けて物件が決まったら、次は設備導入を具体的に考えていきます。設備導入においては、厨房機器の選定から効率的に動けるレイアウト設計、さらにはランニングコストの管理まで幅広い視点を持つことが重要です。ここからは、ラーメン店開業に向けた設備導入時のポイントを解説していきます。
厨房機器は自店ニーズに合うものを選ぶこと
ラーメン店で開業後に使用する厨房機器、家具、調理道具は、納品までに時間がかかるケースもあります。物件の契約が決まったら、なるべく早く営業をはじめられるよう事前に準備を整えておきましょう。ラーメン店で必要となる厨房機器には、以下のようなものがあります。
- ゆで麺機(ラーメン釜)
- ローレンジ・五徳
- 製氷機
- 食材ストッカー
- フライヤー
- 作業台
- ガスコンロ
- 冷蔵庫・冷凍庫
- 作業台
- 食器洗浄機
- 湯切り機
提供するメニューや厨房の広さによっても必要な厨房機器は異なります。たとえば、豚骨スープを得意とする店では、長時間煮込むための大きなスープ鍋や、スープを保温するための専用設備が必要となるでしょう。麺の茹で加減にこだわりがある場合は、温度管理がしやすい設備が求められます。
また、自店に必要なサイズや特徴を持った厨房機器を選ぶことも重要です。たとえば、ラーメンの茹で方には、一人前ずつをテボという深網に入れて茹でる方式と、大きな鍋で複数人数分の麺を茹でて1人前ずつそば揚(網)で掬い上げる方式があります。どちらを選ぶかは店主のこだわりによりますが、前者のテボ式の場合、ゆで麺機には同時に調理できる数、自動ゆで揚げ機能の有無、丸型・角形といった形状など様々なバリエーションがあります。後者の場合は丸型のみとなります。どの厨房機器も、ラーメンの提供スピードや品質に直結します。またスペースの制限がある場合もあるでしょう。自分のこだわりや店舗の条件に合わせて慎重に選んでいきましょう。
清掃のしやすさも考慮して選定すること
ラーメン店に限らず、飲食店における設備選定では、清掃管理のしやすさも重要なポイントです。特に厨房の衛生管理は、食品を扱う以上必須の要素。ラーメン店においては、スープや調味料が飛び散りやすいため、ガスコンロ・作業台は掃除がしやすい材質や構造であることも選定基準の1つとなります。また、冷蔵庫やストッカーも、庫内が清掃しやすい形状や素材を選ぶと、細かな部分まで清潔を保ちやすくなります。
スペースを最大限活用できるレイアウト設計を意識すること
他の飲食業よりも高い回転率となりやすいのは、ラーメン店を開業する大きな魅力です。席数と満席率が売上にダイレクトに影響することは言うまでもありませんが、厨房内のレイアウトも回転率・売上につながります。限られた厨房スペースを最大限に活用するためには、効率的な作業が出来る動線を考慮したレイアウトにすることが重要です。そのほか、たとえば店舗で製麺を行う場合、作業は水気のないところで行う必要があります。そのため製麺機の設置場所は他の厨房機器と離れた場所を確保するなど、設備の用途や作業内容による配置の考慮も必要となります。
長期的なコストパフォーマンスを見据えた設備投資
設備導入にかかるコストは、初期費用としてだけではなく、店舗の運営に長期的な影響を与えるものとして考えることが重要です。安価な機器は初期費用を抑えることが出来る一方で、耐久性が低かったり、頻繁にメンテナンスや修繕費用がかかってしまうリスクもあります。高性能な機器は初期投資こそかかるものの、耐久性・省エネ性能などに優れています。特にラーメン店の厨房設備はエネルギー消費量が大きいため、長期的なランニングコストを見据え、省エネ性能が高いものを導入するのが賢明です。エネルギー効率の良い機器を選ぶことで、結果的にランニングコストを削減でき、経営の安定化につながります。
中古機器の活用で初期費用を抑える
一般的に、ラーメン店を開業する際に新品で厨房設備を揃えるためには200万~250万円程度かかるといわれています。開業資金を抑えるためには、中古品の購入も視野に入れておきましょう。中古品を活用すれば、100万~150万円程度に抑えることも可能です。ただし、品質や耐久性に問題がある中古品も存在します。安さだけに飛びつくのではなく、信頼できる販売店からの購入を心がけ、保障内容やメンテナンスサービスも必ず確認してください。
ラーメン店開業に向けた集客のポイント&注意点

ラーメン店の集客は、開業の成功に直結する重要な要素です。地域市場のリサーチからターゲット層の明確化、SNSの活用まで、集客にはさまざまな方法とポイントがあります。長期的に経営を安定させていくためにも、注意点を押さえながら集客のコツをつかんでいきましょう。
集客の土台となるのはターゲット層と商品のクオリティ
立地や料金設定も集客ポイントの1つですが、思うような集客にならなかった場合に「立地が悪いから」「料金が高すぎるから」と、その要素だけに固執すると本当に必要な改善点が見えてこなくなります。集客の土台となるのは、明確なターゲット層と商品のクオリティです。様々な商品を提供できるのはラーメン店のメリットですが、誰をターゲットにするかを曖昧にしてしまうと、集客がブレがちです。たとえば、学生層をターゲットにするならリーズナブルなセットメニューを、オフィス街で昼食時間の決まっているビジネスパーソンを狙うなら提供までの時間が早いメニューを用意するなどの工夫が必要です。このように、ターゲット層に合わせたメニュー構成やサービスの工夫が、集客の成功につながります。
また、ラーメン店として選ばれるためには、なによりラーメンのクオリティの高さ=味が最重要です。どんなに集客を図る施策を行っても、味が伴わなければリピーターを獲得することは難しいでしょう。ユニークなトッピングや、季節ごとの限定メニューなどを取り入れることで、他のラーメン店と一線を画すこともできます。
ターゲット層と商品のクオリティを高めるためには、市場リサーチが重要です。地域における競合状況や顧客層、交通量なども把握し、ターゲット層の絞り込みに活用してください。
店舗の外観や内装で注意すべき点
「味で勝負」と考える経営者も少なくありませんが、店舗の外観や内装が集客に大きな影響を与えることも事実です。冒頭でお伝えしたコンセプトに見合った外観・内装であることが基本ですが、過度に派手な装飾だったり、逆に地味で目立たない外観では、集客につながりにくくなってしまいます。たとえば入口をガラス扉にするなど、通行人がお店の外からでも店内の雰囲気を感じられるようにすると、より多くのお客様を引き寄せることができるでしょう。
SNS活用における注意点
XやInstagram、FaceBookなど、無料で出来るSNS集客をしようと考えている方も、きっと多いでしょう。確かにSNSを活用した集客は効果的ですが、以下のポイントに気をつけながら進めていくことが重要です。
- 各SNSの特性に合わせた投稿をする
- 投稿内容や頻度に一貫性を持たせる
- ユーザーの年齢層を考慮する
文章がメインのXと、写真がメインのInstagramでは、特性が大きく異なります。ラーメンは見た目で好みかどうかを判断する人も多いため、写真メインのInstagramはラーメン店に向いているSNSですが、自店のコンセプトやターゲットを考慮し、適切なSNSを選びましょう。最近では、ショート動画を集客につなげている飲食店も増えてきているため、YouTubeやTikTokを使うのもおすすめです。また、メニューの写真やキャンペーン情報をアップロードする集客方法も効果的ですが、過度な投稿や宣伝ばかりに偏ってしまうと逆効果になる場合もあります。
リピーター獲得のポイントと注意点
ラーメン店の経営を安定させるためにはリピーターの獲得が欠かせません。ポイントカードや割引サービスを導入し、リピート来店を促す工夫をすることは大切です。ただし、割引サービスや特典を提供するときには、頻度と内容に注意しましょう。過剰な割引サービスは価格に依存した集客となり、利益率が下がるリスクを持っています。また、適切なタイミングでプロモーションを実施することも、重要なポイントです。「オープン記念の割引」など、特定の日に合わせた割引サービスを行うと、集客効果が高まります。
地域のイベントへ参加する際の注意点
ラーメンフェスなど地域のイベントへの参加も、効果的な集客方法です。しかし、イベントの規模・ターゲットが自店の方向性と一致しているかどうかには、注意が必要です。イベントは新たな顧客層にアプローチするチャンスとなりますが、提供するメニューやサービスがイベントのテーマや参加者のニーズに合っていないと、集客効果が薄くなります。やみくもにイベントへ参加するのではなく、自店のコンセプトやターゲット層とマッチするイベントを選んで参加していきましょう。
Googleマップの活用と注意点
Googleマップへの登録は、ラーメン店の集客において必須ともいえる方法です。Googleマップに登録しておけば、「地域名+ラーメン店」で検索した際に自店の情報を表示させることができ、観光客など遠方から来ている人の目にも留まりやすくなります。一方で、Googleマップの活用には「店舗情報を常に正しく表示させること」と「口コミへの対応」に注意が必要です。
営業時間や定休日、連絡先を正しく記載していないと、お客様に無駄足を踏ませてしまうことになります。特に営業時間や定休日に変更があった際には、早めに修正をしておきましょう。またGoogleは、利用者が自由に口コミを投稿できるものです。ポジティブな口コミが多ければ当然集客につながりますが、注意すべきはネガティブな口コミです。店舗の信頼を損なわないように、ネガティブな口コミにも真摯に向き合い、改善の意向を返信で伝えましょう。
まとめ
ラーメン店の開業は、事業計画から始まり、物件選びや設備導入、集客など、数多くのステップを踏みながら進めていく必要があります。物件選びや設備導入では、コスト削減に意識が向きがちですが、長期的な経営視点を持って選定していくことも重要です。
集客面では、地域リサーチやターゲット層の明確化が土台を作ります。SNSやGoogleマップを活用して店舗の魅力を発信すると、口コミ効果も得られ、効率的に集客できるようになります。ポイントや注意点を押さえながら実行することで、開業後の成功に近づけるでしょう。