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香ばしい香りに誘われて、ふらりと立ち寄ってしまうパン屋さん。そんな魅力的な空間を自分で作ってみたい――そう考える方は少なくありません。製パン店、ベーカリー、ブーランジェリーなど、パン屋は飲食業の中でも特に人気のある業態のひとつです。
とはいえ、パンの作り方は知っていても、それを「商売」として成り立たせるには、どんな準備が必要なのか、具体的なイメージが湧かないという方も多いのではないでしょうか。
この記事では、パン屋を開業するために必要な資金、取得すべき資格、揃えるべき設備、そして開業までの手順について、ひとつひとつ解説していきます。さらに、長く愛されるパン屋を目指すための経営のコツもご紹介。
「いつか自分のお店を持ちたい」と思っている方にとって、第一歩を踏み出すためのヒントになれば幸いです。
パン屋開業が人気の理由と市場規模


パン屋を開業したい――そんな夢を抱く人が増えているのには、いくつかの理由があります。なかでも大きな魅力のひとつが、「1人でも始められる手軽さ」ではないでしょうか。
小規模なパン屋であれば、従業員を雇わずに個人で開業することも可能です。イートインスペースを設けなければ、限られた間取りでも営業ができ、メニュー数が少なくてもスタートしやすいという点も、初めての開業には心強いポイントです。
では、パン市場の現状はどうなっているのでしょうか。


株式会社矢野経済研究所が発表した『2023年版 パン市場の展望と戦略』によると、国内のパン市場は2020年度にコロナ禍の影響で業務用需要や都市部の消費が落ち込んだものの、翌年度には行動制限の緩和により需要が回復。2021年度には前年度比101.0%の1兆5,354億円に達しました。さらに、2026年度には1兆6,000億円台に達する見込みとされており、今後も成長が期待される分野です。
とはいえ、パン市場は一枚岩ではありません。高級食パンやフルーツサンドなど、特定の商品が一時的にブームとなることもあれば、原材料価格の高騰による値上げなど、経営には柔軟な対応が求められます。市場の動向を見極めながら、時代に合った商品やサービスを提供することが、長く続けるための鍵となるでしょう。 また、パン屋と一口に言っても、そのスタイルはさまざまです。お惣菜パンや菓子パンを豊富に揃えた街のパン屋さん、バゲットやカンパーニュなど本格的なフランス風のパンを扱うブーランジェリー、高級食パン専門店、さらには飲食スペースを併設したベーカリーカフェなど、提供する商品やサービスは店舗のコンセプトによって大きく異なります。
どんなパン屋を開業したいのか――その「コンセプト」を明確にすることが、開業準備の第一歩です。自分らしいお店づくりのために、じっくりとイメージを膨らませてみてはいかがでしょうか。
パン屋開業に必要な資金
パン屋を開業するにあたって、最初に知っておきたいことは開業するまでと、開業してから必要な資金についてです。ここでは初期投資や運転資金、さらに資金調達の方法について解説します。
初期投資の内訳
J-Net21(独立行政法人中小企業基盤整備機構)によると、店舗面積20坪程度のパン屋を開業する際の資金例として、1,170万円かかるとしています。
| 項目 | 金額(万円) |
| 店舗物件賃貸料 | 300 |
| 内外装工事費 | 200 |
| 厨房機器・什器・備品類 | 500 |
| 広告宣伝費 | 50 |
| 研修・教育費 | 20 |
| その他 | 100 |
| 合計 | 1,170 |
出典:J-Net21「業種別開業ガイド パン屋(ベーカリー)」
上記の項目に沿って、それぞれに必要なものを見ていきましょう。
店舗費用(店舗物件賃貸料)
物件を賃貸する場合であれば、事業用物件では家賃の3~6ヶ月分の敷金がかかるのが一般的です。他にも、不動産会社に支払う仲介手数料や前家賃、保証会社利用時には保証料が発生するなど、さまざまな初期費用が発生します。
設備費用(内外装工事費・厨房機器・什器・備品類)
パン作りにはオーブンやミキサー、発酵器などの専門的な機器が必要で、これらの導入に係る費用が大きな割合を占めます。それ以外にも、エアコンや陳列棚、レジ、什器など店舗に必要な設備費用もかかります。
その他(広告宣伝費・研修教育費・原材料費)
新たに店をオープンしたことを多くの人に知ってもらうため、チラシやタウン誌などでの広告掲載や、集客のためのキャンペーン費用などをあらかじめ広告宣伝費として確保しておく必要があります。
研修・教育費は、自身の製パン技術や経営に関する技術・知識の習得や、スタッフに学んでもらうための費用です。
その他、パンの原材料である小麦粉や砂糖、バター、イーストなどは、初回の仕入れだけでもまとまった費用がかかります。最近では原材料費が高騰しているため、どのような原材料をどこから仕入れるかよく吟味する必要があるでしょう。
運転資金の目安
開業後、売上の有無にかかわらず、家賃、人件費、原材料費、水道光熱費、各種手数料など数多くの費用の支払いが待っています。店が軌道に乗るまでには3~6ヵ月程見ておくのが安心であり、少なくとも300万円ほどの運転資金を確保しておきたいところです。
資金調達方法
開業にかかる資金は一般的に、自己資金と金融機関などからの資金調達でまかないます。
融資を受ける場合、銀行や信用金庫、日本政策金融公庫(いわゆる公庫)などの金融機関から融資を受けることを検討します。融資を受けるには売上や経費の計画をまとめた事業計画書の提出が求められます。その内容に加え、借入額や無理のない返済計画を明確にし、審査に臨みましょう。
国や地方自治体、商工団体などが用意する補助金や助成金制度も使えるかを確認しましょう。設備導入や広告宣伝にかかる費用を補助してくれるものなど、さまざまな種類があります。補助金は交付を受けられるかどうかの審査がありますが、助成金については条件に合致すれば交付されるので、どのような助成金があり、条件はどのようなものかを確認しておきましょう。
最近ではクラウドファンディングも資金調達で多く見られる手法です。開業に向けた想いや実現したいことを専用サイト上で訴えかけ、想いに共感した一般の人から支援を募るものです。
クラウドファンディングでは支援金が集まるだけでなく、同時に店やオーナーのファンをつくることも期待できるため、開業して間もない頃に既に応援してくれる人がいることは大変心強いでしょう。
一方で、返礼品に係るコストや、割引券、商品チケットのような返礼品の場合、売上の先食いとなることにも注意が必要です。
パン屋開業に必要な資格と許可


パン屋の開業には、食品の安全と衛生を守り法律に基づいた運営を行うために、定められた資格や許可を取得する必要があります。ここでは、必要となる主要な資格と許可について解説します。
食品衛生責任者
食品を取り扱う上で最も重要なことが、食中毒や衛生問題を未然に防ぐことです。それに向けた食品衛生学、公衆衛生学、食品衛生法について学び、衛生管理や食品の取り扱いに関する知識を得て、正しい衛生管理の下に飲食業態を経営するために求められる資格が「食品衛生責任者」です。すべての飲食業態に配置が義務付けられています。調理師や栄養士の資格があれば食品衛生責任者になることができますが、免許が無い場合は、保健所が実施する講習を1日受講することで資格の取得が可能です。受講料はおよそ1万円です。講習は定期的に開催されていますが、地域によっては開催頻度が少ない場合もあるため、開業を決めたら早めに取得しておきましょう。
菓子製造業許可
「菓子製造業許可」は、パンやケーキなどの菓子を製造・販売する際に必要な許可です。この許可を取得すれば、パンだけでなくクッキーなどの菓子製造も可能となります。もし飲食スペースを用意し、イートインも行いたい場合、別途「飲食店営業許可」の取得も必要となります。営業許可は各自治体の管轄する保健所が行います。営業許可を受けるには厨房設備・環境の条件があるので、開業予定の店舗が条件を満たしているか、あるいは内装工事を行う場合は条件に合致した内容となっているか、事前に保健所に確認を行うとよいでしょう。
飲食店営業許可
パン屋を開業する際、忘れてはならないのが「営業許可」の取得です。特に最近では、焼き立てのパンをその場で楽しめるイートインスペースを設けた店舗が増えており、ランチタイムやカフェタイムの利用を見込んだ運営スタイルも人気を集めています。こうした空間は、リピーターを生むきっかけにもなり得るため、導入を検討する価値は十分にあるでしょう。
ただし、イートインスペースを設ける場合には「飲食店営業許可」が必要になります。これは、店内で調理したサンドイッチなどを提供する場合も同様で、イートインがなくても調理を伴う販売には注意が必要です。
なお、令和3年6月の制度改正により、「菓子製造業の営業許可」でも、簡単なドリンクやサンドイッチなどの軽飲食の提供が可能になりました。ただし、スープやサラダなど、調理を伴うメニューは対象外となるため、提供したい商品に応じて適切な許可を選ぶ必要があります。
営業許可の基準や申請手順は、地域の保健所によって異なる場合があります。設備を整えた後に申請が却下されるといった事態を避けるためにも、開業準備の段階で保健所に事前相談をしておくことが非常に重要です。
パン屋のスタイルや提供するメニューによって、必要な許可は変わってきます。理想のお店づくりをスムーズに進めるためにも、制度の理解と準備は欠かせません。
その他関連資格
防火管理者
店舗内の収容人員数が従業員を含み30人以上の場合は、防火管理者の選任が義務付けられています。イートインスペースを設ける場合、席数によっては該当することになります。
パン製造技能士
パン作りのプロとしての資格を取得するのであれば、国家資格である「パン製造技能士」があります。試験は学科と実技で構成されています。2級は実務経験2年、1級は7年、特級は1級合格後5年の経験が必要です。取得まで道のりは長いですが、本格的なパン職人がいる店としてアピールでき、他店との差別化の意味でも大きな強みとなります。
パン屋に必要な設備リスト


パン屋を開業するには、厨房設備機器、衛生設備、販売用の設備などを用意します。店舗運営においてどのような設備が必要か、具体的に見ていきましょう。
厨房設備機器
パン屋の厨房設備の主なものとして、ミキサーや発酵機、オーブンがあります。また、材料を保存する冷蔵庫や冷凍庫も必須です。他には、作業台やモルダー、パイローラー、フライヤーなどを揃えておくと効率的に作業・調理ができて良いでしょう。
衛生設備
衛生設備は、パンの製造と販売における衛生管理に欠かせません。洗浄とすすぎに分かれている2槽シンクや手洗い設備、ゴミ箱、換気扇、排気フード、エアコンなどを揃えておくと快適な店舗づくりに役立ちます。
販売設備機器
パン屋の販売設備には、レジやディスプレイ棚、ショーケースが必要です。最近ではキャッシュレス決済も増えているため、レジは現金・キャッシュレス両方に対応できるものが便利です。商品の保温や冷蔵が必要な場合の陳列には、保温機能や冷蔵機能付きのケースも検討しましょう。トングやトレーなどお客様用の備品も揃えておく必要があります。
パン屋経営成功のコツ
原材料費の高騰や人材不足などで打撃を受けやすい飲食業態においては、長く運営するためのポイントをおさえた経営が重要です。ここでは、パン屋の開業と運営を成功させるコツを、5つのポイントに分けて解説していきます。
独自性のある商品開発
パンにはさまざまな種類がある中で、その店ならではの独自性を持たせた商品で、他店との差別化を図りましょう。定番商品のクオリティを高めるだけでなく、季節限定やイベントに合わせた限定商品を企画することも有効です。次のような工夫も、独自性をアピールする場合の参考にしてみてください。
新しい食材の活用
地元の特産品を使ったパンを開発することで地域の特色を活かし、地元の顧客だけでなく観光客にも魅力をアピールできます。地元食材や生産者の顔が見える食材を使用した食べ物は人気を呼びやすく、店や商品のファンづくりにもつながります。「この地域ならでは」のパンで、地域に愛されるパン屋を目指しましょう。
トレンドを取り入れる
グルテンフリーや低糖質のパン、ヴィーガン対応のパンなど、健康志向やライフスタイルのトレンドに合わせた商品開発も一つの方法です。トレンドを取り入れることで顧客の関心をひくことができるだけでなく、「この店でしか買えない」ような商品が提供できれば、リピーターの獲得にもつながります。
見た目の工夫
商品は見た目も重要です。InstagramなどSNS映えを意識したビジュアル重視の商品は、顧客が宣伝してくれやすく、口コミ効果も期待できます。SNSでシェアされやすいデザインや色彩の工夫も検討しましょう。
製造プロセス
パン屋というと、原料の仕入れから、生地の生成、焼き上げまでを行うことをイメージするかもしれません。このような製法は「オールスクラッチ製法」といいます。一方で、たとえば冷凍生地を仕入れて成形、焼き上げを店舗で行う「ベイクオフ製法」や、成形まで行われた冷凍パンを仕入れて焼き上げだけを行う「QBD製法(Quarity by design製法)」などがあります。こうした製法をうまく組合せてプロセスを効率化したり、品揃えを充実させたりすることも可能です。
効果的なマーケティング戦略


パン屋の集客には、地域密着型のマーケティングだけでなく、オンラインを活用した宣伝も効果的です。特に、SNSを活用したプロモーションはコストを抑えつつ広範囲にリーチできるため、中小規模の店舗でも活用しやすい手法です。
SNSを活用
広告を出すと費用がかかりますが、InstagramやXを活用し、新商品の紹介やイベント情報を発信できれば、コストをかけずに店舗の認知度を高められます。顧客がタグを付けて投稿しやすいように、独自のハッシュタグを設定するのも有効です。定期的に投稿し、常に新しい情報を届けられるようにしましょう。投稿に対しての顧客からのアクションや問い合わせにも対応できると、顧客との関係を築くことができ印象も良くなります。
クーポンや割引の活用
SNSフォロワー限定のクーポンや、リピーター向けの割引を提供することで、初来店のきっかけを作ったり、来店頻度を上げることができます。来店時のポイントカードやスタンプカードの導入も、顧客の再来店を促す効果があるため活用しましょう。
地域のイベントに参加
店舗営業だけでなく、地元で行われるイベントやマルシェなどに出店することで、リーチしていなかった層にも店舗を知ってもらう機会を増やせます。新たな顧客層への認知拡大や新規顧客の獲得が期待できます。
原価管理と価格設定
パン屋の経営では、原価管理と価格設定が収益に大きく影響します。特に原材料費が高騰している昨今では、原価を適切に管理し、無駄を省く努力が求められます。
原価管理
パン屋の場合、原価率は商品によっても異なりますが10〜30%程度が一般的です。パンは商品単価が低いため、少しでも利益率を高められるように原価を抑える工夫をしたいところです。まずは食品ロスの削減です。必要な在庫量を把握し、適切な分量の発注を徹底することが重要です。他にも、調理時のロスを減らす工夫や、売れ残りを減らす工夫、必要分量以上の材料を使用しないための計量の徹底、手間のかかるメニューの削除などがあります。
価格設定
価格設定の際は、周辺エリアと業態の相場を調査しておきましょう。出店エリアのライバル店の価格やサービスを確認し、その地域で受け入れられる価格を見極めることが大切です。また、メニューごとの価格だけでなく、トータルの客単価も考慮する必要があります。目玉商品と利益が出やすい商品を組み合わせて、バランスの良い価格設定を行いましょう。
たとえば同じボリューム感のパンは価格を統一するなど、消費者が選びやすいような価格設定にしたり、市場よりもリーズナブルな目玉商品を用意すると、購買意欲や再来店意欲を高める効果も期待できます。
顧客サービスの向上
顧客に来店してもらうためには、顧客満足度を高めることが大切です。単に商品を提供するだけでなく、来店したお客様に満足感を与えるサービスが求められます。
店内の清潔感と雰囲気作り
飲食店である以上、店内が清潔であることは必須条件です。また、居心地が良い空間であることも重要で、リピーターの獲得に大きく影響します。内装外装のデザインや照明、BGMなども含めて、顧客にとって快適な雰囲気作りを心がけましょう。また、中の様子が見えるようにするなど入りやすい店舗作りを意識することも大切です。
丁寧な接客
来店・退店時のあいさつはもちろん、温かみのある接客を心がけることで、良い印象を与えることができます。たとえば常連客に対しては名前や顔を覚えるなど、親しみを持って接することで、来店頻度を高められます。
購入後のフォロー
パンの保存方法やおすすめの食べ方などのアドバイスを添えて販売することで、顧客にとっての「買ってよかった」という満足度が高まります。また、たとえば新商品が出た後にSNSで「どうだったか」の感想を聞く投稿をすると、顧客とのつながりをつくれるだけでなく、次の新商品づくりに活かすこともでき有効です。
スタッフ教育と店舗運営


スタッフを雇用する場合は、スタッフを教育し店舗運営が円滑に行われるようにすることも重要です。
スタッフ教育
飲食物を取り扱う店のスタッフとして、清潔感のある制服を用意し、明るく丁寧な接客を心がけます。単に商品陳列や会計といった業務をこなすだけでなく、新商品の紹介、店のこだわり、美味しい食べ方など、積極的に顧客とコミュニケーションをとったり、顧客からの質問にも対応できるようにしましょう。定期的な研修やミーティングを行い、サービスの品質を高める努力が店舗運営の成功のカギになります。
効率的な店舗運営
作業がスムーズに進むように、業務フローの見直しや改善を行うことも大切です。たとえば、製パンの工程における機器の配置や作業台の位置を変え動線を見直すことで、業務の効率が上がり、忙しい時間帯でもスムーズな対応が可能になるでしょう。
スタッフ間のコミュニケーションを円滑にするために、連絡ツールやスケジュール管理を徹底することも重要なポイントです。
パン屋開業の手順とスケジュール


パン屋を開業するためには、事業計画の立案から市場調査、資金調達、設備購入、許可申請、オープンの宣伝と重要なプロセスがあります。開業後のスムーズな運営につなげるためにも、開業までの準備を計画的に進めましょう。
事業計画の立案
まずは、パン屋の開業に向けて具体的な事業計画を立てます。事業計画書を作成することで実現性を検証し、具体的な開業イメージを明確にすることができます。例えば、計画書には「営業計画」として、商品の内容や価格、広告媒体などを設定し、開業後の集客や販売方針を具体的に見据えます。「売上計画」には売上目標や利益計算を盛り込み、開業後の資金繰りや経営面での準備を行います。他にも、原材料を仕入れる業者の選定と価格の比較であったり、開業において必要な設備導入にかかる費用などもあらかじめ明確にしておきましょう。
事業計画は開業の5か月前から8か月前の時期に取り組んでおくと、課題を早期に発見でき、開業までに問題点を潰しておくことができます。
市場調査と立地選定
パン屋開業には市場調査と立地選定も重要なポイントです。開業したい土地の近隣のパン屋さんやベーカリーカフェなどを訪れ、競合店舗の分析を行いましょう。どのような商品を提供しているか、価格帯や客層などを調査します。競合店の分析を通じて、自店の差別化ポイントを明確にします。
次に、ターゲット層を確認します。立地によって訪れる顧客の特性が変わるためです。たとえば、オフィス街ならランチやビジネスパーソン向けに持ち帰りしやすい商品が好まれ、住宅地では家族向けの品揃えが重要になります。
周辺の交通アクセスと利便性も大切です。公共交通機関の利用が便利な場所や、駐車場が確保できる立地は集客力が上がります。立ち寄りやすいことは顧客にとっては便利でありがたいポイントです。売上に直結する部分でもあるため、利便性はよく吟味しましょう。
自分が提供したいパンの種類や価格帯と、出店する立地のターゲット層がマッチしているかをしっかり見定めましょう。
資金調達と設備購入
パン屋の開業に必要な資金は、自己資金のほかに金融機関による融資、補助金や助成金の活用、クラウドファンディングなどによって調達できることは前述したとおりです。
これらの資金調達方法を活用して集まった資金は、金額の大きい機器や厨房設備、販売設備の購入に充てましょう。また、開業後の故障は大きな痛手となるため、メーカーの保証やアフターサービスについても確認しておきましょう。
厨房機器は購入ではなくリース契約によって月額利用料で使用する方法もあります。リースの場合、初期費用を抑えられますし、メンテナンスやいざというときの修理の対応も万全です。これらは厨房機器メーカーなどに問い合わせて、メリット・デメリットを比較しましょう。
店舗規模に合わせて、過剰な設備投資を避けることが大切です。新品に限らず、中古設備の導入も検討することでコストを抑えられます。
許可申請と店舗準備
開業するまでには資格取得や、許認可、各種届出など、さまざまな手続きがあります。内容や混雑状況によって申請をしてもすぐ許可が降りないこともあるため、それぞれの手続き、許認可にどのくらいの期間がかかるかを事前に確認し、スケジュールに落とし込んでおきましょう。
パン屋を開業する際に必要な資格のひとつが「食品衛生責任者」です。この資格がなければ菓子製造業の営業許可を申請できないため、パン屋を始めるにはまず食品衛生責任者の資格が求められます。
さらに、個人事業主として開業時に提出が必要な「個人事業の開業・廃業等届出書」(開業届)と「事業開始等申告書」があります。開業届は税務署へ、事業開始等申告書は都道府県税事務所へ届け出る必要があります。両者は似たような届出ですが、開業届は国税に関する届け出、事業開始等申告書は地方税に関する届け出であり、それぞれ違いがあります。
オープンに向けた準備と宣伝
いよいよ開業に向けた最終準備と宣伝活動に移ります。プレオープンを行う場合は、スタッフが実際のオペレーションを確認できると同時に、近隣の住民に店舗を認知してもらう良い機会となります。口コミでの集客も期待でき、オープン初日からの来店数が安定しやすくなる効果があるため、検討してみましょう。
ホームページや、Instagram、X、FacebookなどのSNSでオープン日、営業日、所在地、商品の紹介などを行いましょう。地元のフリーペーパーや折込チラシ、ラジオCMなどメディアによる広告宣伝もありますが、有料になるため予算を見ながらうまく使い分けしていくことが必要です。
他にも、オープン記念セールや特典付きキャンペーンを実施することで、初めての来店を促すことができます。たとえばオープン当日に限り、割引やノベルティの配布を行うと顧客が増えやすく、再来店のきっかけにもなる可能性が高まります。
パン屋開業でよくある失敗パターンと対策


多くの店舗が経験しがちな失敗パターンを事前に理解し、適切な対策を講じることで、失敗を避けやすくなるでしょう。ここでは、よくある失敗事例を紹介していきます。
過大な初期投資
初期投資は開業準備の中でも重要なポイントです。しかし、過度な設備投資や店舗デザインへのこだわりにより、必要以上のコストをかけてしまうと、運転資金が不足し、経営が立ち行かなくなる可能性があります。
開業の際は、まずは必要最低限の設備や内装を整えることを優先し、運転資金を多めに確保することが大切です。高額な設備や内装を導入する場合は、リースや中古品の活用も検討しましょう。また、物件については前の借主が残したままの状態で借りられる「居抜き物件」も費用を抑えられ有効です。実際の運営で得られる利益が安定した後に、段階的に追加投資を行うことでリスクを軽減できるため、初期段階から大きな額を投資しすぎないようにしましょう。
商品開発の失敗
パン屋の命とも言える商品開発が上手くいかないと、リピーターを獲得できず、売上に大きく影響します。「開業前に十分な試作品を作らなかった」「独自性や需要の確認を怠った」などの場合、顧客のニーズに合わない商品ラインナップが店内に並ぶことになり、集客に苦戦します。
対策として、開業前に試食を行い、顧客の反応を事前に確認することが効果的です。また、顧客の好みに応じた商品改善や、季節に合わせた新商品の開発も定期的に行うことで、顧客の飽きを防ぐことができます。流行を意識しながらも自店の特色を活かしたラインナップが、長期的な顧客獲得につながります。
競合との差別化不足
パン屋市場は競争が激しく、特に同じエリア内に多くの店舗が存在する場合、他店と似た商品やサービスでは集客が難しいことが多いです。独自の魅力が感じられないと、他のパン屋と比較される中で価格競争に巻き込まれるリスクもあります。
オリジナルのレシピを開発するだけでなく、素材や製法にこだわった商品や、地元の食材を使った地域密着型のメニューを提供することで独自性が生まれます。また、SNSを活用した店舗のプロモーションや、期間限定商品、季節のイベントなども差別化に役立ちます。
付近の競合店の調査を徹底し、どのような商品が他店と差別化できるのかを明確にしておくことが大切です。
経営管理スキルの不足
どんなにパン作りの技術があっても、経営の知識が不足していると、収支管理や人材管理が適切に行えず、長期的な経営が困難になることがあります。
経営者として、経営の基本を学ぶためのセミナーや研修に参加するほか、特に会計や労務管理においては専門家のアドバイスを受けられると安心です。また、日々の売上や支出を記録し、収支を把握することで、無駄なコストを削減し利益率を高めることができます。スタッフの採用や教育も重要で、労働力を効率よく配置し、チームとしての士気を高めることで、店全体の運営効率も向上します。いざという時に頼れる専門家や機関を見つけておき、不安の無い経営を目指しましょう。
パン屋開業に関するよくある質問
「どれくらいの資金が必要なの?」「準備にはどれくらいの期間がかかるの?」「補助金は使えるの?」気になることが沢山あります。
ここでは、パン屋開業に関してよく寄せられる質問をもとに、開業までの流れや必要な準備について、わかりやすくご紹介します。
パン屋の開業を目指す方にとって、最初の一歩は期待と不安が入り混じるもの。
事前に知っておくことで、開業までの道のりがぐっとスムーズになります。準備不足によるトラブルを避けるためにも、基本的な情報をしっかり押さえておきましょう。


パン屋開業のための補助金や助成金
パン屋開業に補助金や助成金はありますか?
パン屋の開業を目指す方にとって、資金面の不安はつきものです。そんなときに心強いのが、国や自治体が提供する補助金・助成金制度。うまく活用すれば、初期費用の負担を軽減し、よりスムーズなスタートを切ることができます。
ここでは、パン屋の開業に活用できる代表的な補助金・助成金をご紹介します。
- 受動喫煙防止対策助成金
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店舗内の喫煙対策設備(空気清浄機や換気設備など)の導入に活用できる助成金。飲食店営業許可を取得する際の環境整備にも役立ちます。
- 小規模事業者持続化補助金
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販路開拓や集客強化のための取り組みに対して支給される制度で、個人事業主にも利用しやすいのが特徴です。チラシ作成やホームページ制作などにも使えます。
- ものづくり補助金
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製造業や食品加工業などが対象で、生産性向上のための設備導入や技術開発に活用できます。パン製造に関する機器の導入にも適用される可能性があります。
- 創業補助金
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新たに事業を始める人を対象に、設備投資や広報費などの初期費用を支援する制度です。個人事業主でも申請可能なケースが多く、開業初期の資金計画に役立ちます。
- IT導入補助金
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業務効率化や売上拡大を目的としたITツールの導入支援制度。POSレジや会計ソフトなど、店舗運営に必要なIT機器の導入に活用できます。
- 事業再構築補助金
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コロナ禍以降の事業転換や新分野展開を支援する大型補助金。既存事業からの業態変更を伴う場合に検討されることがあります。
これらの制度は、併用が可能な場合もありますが、同じ経費項目を複数の制度で重複申請することはできません。また、基本的には「後払い」が原則であり、申請から支給まで半年〜1年程度かかることが多いため、資金繰りの計画も重要です。
さらに、自治体によって制度の有無や条件が異なるほか、従業員数や事業形態によって対象外となるケースもあります。申請前には、必ず管轄の窓口へ確認しておくことをおすすめします。
補助金や助成金は、開業の夢を現実に近づけるための強力な味方。制度を正しく理解し、計画的に活用することで、理想のパン屋づくりに一歩近づけるはずです。
パン屋開業までの期間
パン屋を開業するまでにどのくらいの期間がかかりますか?
パン屋を開業するには、どれくらいの時間がかかるのでしょうか?
一般的には、6ヶ月〜1年程度を見ておくと安心です。もちろん、店舗の規模や準備状況、物件の条件などによって前後することはあります。
以下のようなステップを踏むのが一般的な流れです。
- 1. 事業計画の策定(1〜2ヶ月)
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まずは、パン屋のコンセプトやターゲット層、資金計画、収支予測などを整理します。補助金の申請にも必要となるため、しっかりとした計画書を作成することが重要です。
- 2. 物件探し・契約(1〜2ヶ月)
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立地や設備条件を比較しながら、理想の店舗物件を探します。人気エリアでは競争が激しく、希望の物件が見つかるまで時間がかかることもあります。
- 3. 内装工事・設備導入(1〜2ヶ月)
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厨房機器や什器の選定・設置、内装の施工を行います。保健所の施設基準を満たす必要があるため、設計段階から衛生面にも配慮が必要です。
- 4. 許認可の取得(1ヶ月前後)
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食品衛生責任者の資格取得や営業許可の申請を行います。イートインスペースを設ける場合は、飲食店営業許可も必要になります。
- 5. スタッフ採用・販促準備(1ヶ月前後)
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人材の募集・研修を行い、チラシやSNSなどを活用した告知活動をスタート。プレオープンを実施することで、運営の最終チェックも可能です。
このように、パン屋の開業には複数の工程があり、それぞれに時間と手間がかかります。余裕を持ったスケジュールを立てることで、焦らず着実に準備を進めることができるでしょう。
パン屋開業のための資金
パン屋を開業するにはどれくらいの資金が必要ですか?
実際に必要となる費用は、店舗の規模や立地、設備の内容によって大きく異なりますが、一般的には初期費用と運転資金を合わせて1,000万円〜3,000万円程度が目安とされています。
- 初期費用の内訳
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開業時にかかる主な初期費用には、以下のような項目があります
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- 店舗物件の取得費(敷金・礼金・保証金など)
- 内装工事費
- 厨房機器・什器の購入費
- 広告宣伝費
- 許認可取得費
これらは店舗の立地や広さ、設備のグレードによって大きく変動します。たとえば、居抜き物件を活用すれば、すでに設備が整っているため、数百万円単位でコストを抑えることも可能です。
- 運転資金の内訳
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開業後、売上が安定するまでの数ヶ月間に必要となる運転資金も忘れてはいけません。主な項目は以下の通りです
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- 原材料費
- 人件費
- 光熱費
- 家賃
これらの費用は、最低でも3〜6ヶ月分を確保しておくと安心です。特に開業直後は集客や認知度の向上に時間がかかるため、余裕を持った資金計画が求められます。
小規模な個人店であれば、1,000万円前後でも開業は可能ですが、店舗の規模が大きくなるほど設備投資や人件費も増加します。資金計画は慎重に立て、補助金や助成金の活用も視野に入れながら、無理のない資金調達を心がけましょう。
まとめ


小さく始めて、長く続けるために。パン屋開業の心構えと厨房環境の工夫
パン屋の開業は、ひとりでも小規模で始めやすい業態として人気があります。しかしその一方で、計画性や対策を欠いた運営では、思わぬ失敗につながるリスクも潜んでいます。
開業準備では、どうしても初期投資に目が向きがちですが、実際にお店を継続していくためには、運転資金の確保にも十分な注意が必要です。売上が安定するまでの期間を見越して、資金計画を立てることが、安定した経営への第一歩となります。
開業には不安もつきものですが、失敗やリスクを前提にした準備と、開業後の定期的な改善を重ねることで、地域に愛されるパン屋を育てていくことができます。お客様の声に耳を傾けながら、柔軟に対応していく姿勢が、長く続けるための鍵となるでしょう。
パン屋を開業する時におすすめ!配管工事不要の厨房製品を紹介
パン屋の開業にあたっては、厨房設備の選定も重要なポイントです。そこでおすすめしたいのが、配管工事不要の厨房製品です。
「FUJIOH」が提供する調理油煙回収ユニット・クッキングオイルコレクターは、電気調理器との組み合わせにより、ダクト配管工事が不要。これにより、工期と費用の節約が可能になります。
さらに、従来の排気フードとは異なり、空調された空気を外に逃がさない構造のため、空調エネルギーの節約にもつながります。FUJIOH独自の「オイルスマッシャー」技術と、ワンタッチで着脱できる部品構造により、フィルターの洗浄も簡単。油汚れによるお手入れの負担を軽減し、厨房の空気環境の改善にも貢献します。
清掃の手間を減らし、快適な作業環境を整えることは、日々の運営を支える大切な要素です。飲食店開業に向けた厨房環境のご相談は、ぜひ「FUJIOH」にお問い合わせください。


FUJIOH 業務用事業ソリューション推進担当 藤野 修一
飲食店・宿泊施設・食品小売など、業務厨房に関する課題解決に従事。排気・給気の設計から、循環タイプ機器の導入提案、さらに省エネや作業効率向上を目的としたレイアウト改善まで、現場に即したソリューションを提供してきた実績を持つ。メーカーや設計事務所、施工会社との協業を通じ、店舗の新規立ち上げから改修までを幅広くサポート。現在は、業務用厨房における「新しい厨房のカタチ」をテーマに、課題解決型の提案活動に取り組んでいる。








